奥利根雪上テント泊縦走⛺❄至仏山から赤倉岳・平ヶ岳へ
尾瀬・至仏山・悪沢岳・笠ヶ岳
(群馬, 新潟, 福島)
2024.05.03(金)
3 DAYS
【prologue】
昨年のGWに計画されていた雪上テント泊縦走だったが、雪の少なさや仕事の都合等で中止に。
そして迎えた今年のGW、祈念の奥利根源流域での雪上テント泊縦走に挑戦する運びとなった。
今回のルートは、尾瀬の鳩待峠から入山し、日本百名山の至仏山から平ヶ岳までを繋ぐ2泊3日のルート。
途中で、マイナー12名山(山岳雑誌「岳人」で紹介された、四季を問わず創造的登山をしなければ登頂できない名山リスト)の赤倉岳に山名板を設置してくるのも目的の1つである。
同行者のお二人は、残雪期に尾瀬から平ヶ岳までを歩いたことのある経験者。
足手纏いになってはいけないと、この縦走に向けて、スリーシーズンの登山靴や冬用シュラフ、雪山用シャベルを手に入れたほか、竹ペグの制作や同じような山域での予行演習等を行い、万全の体制で挑む。
当初は5月4日からの3日間の予定だったが、最終日に天気が崩れそうな予報だったことから、日程を1日早めて決行。
機は熟せり、いざ参らん。
【Day-1】
天気は快晴。
戸倉第1駐車場(1,000円/日)に駐車し、午前6時半始発の乗り合いタクシー(大人片道1,300円)で鳩待峠へと向かう。
ゴールデンウイーク真っ只中だけあって、至仏山を目指す人で盛況。
装備の重量は約20kg、雪は緩んでいたことからツボ足のまま至仏山に登頂する。
ここから先が今回のメインルート。
岩と雪、そして藪をいかにして突破するかが今回の山行における核心部の1つ。
至仏山山頂から見える北斜面はかなり藪が出ており、難儀することが容易に想像された。
北斜面を少し進むと、斜度のある雪面が出てきたので、アイゼンを装着。
すぐに岩稜帯となったため、アイゼン外して尾根芯沿いに進んでいく。
この辺りで男性2名の先行パーティーを追い越す。
やはり彼らもススヶ峰方面を目指すようで、互いの健闘を祈る。
そして出現した強烈、いや、苛烈ともいうべき大藪漕ぎ。
日本アルプスを始め、数々の難ルートを歩いたことのあるチームリーダーをしても、過去一番の藪漕ぎだったという。
背丈ほどの高さのある松にシャクナゲ、笹等のジャングルに方向感覚を失いそうになる。
時折出てくる残雪が砂漠の中のオアシスのようだ。
目視とGPS等を駆使して藪と格闘すること約3時間、なんとか藪を突破することが出来た。
しかし、藪漕ぎの過程で藪に引っかかってしまったのか、同行者がザックに外付けされていたシャベルの柄や、ポール等がいつの間にか無くなってしまったほか、当初の計画よりも1時間半から2時間ほどの遅れが出て、精神的にも疲労困憊となる。
当初、時間次第で初日に赤倉岳まで目指すことも視野に入れていたが、時間的にも体力的にも断念し、午後3時過ぎにススヶ峰手前の眺望の開けた平地に幕営。
テント張りをしながらプシュッと開けた黄金色の麦酒が五臓六腑に沁み渡る。
このススヶ峰辺りに尾瀬方向から上がってきたと思われる数組のパーティーがテントを張ったようだ。
ひとしきり水作りと宴会を行い、早々に寝袋にくるまった。
【Day-2】
午前3時半起床。
外気温はマイナス5度の快晴。
朝食や着替えを済ませ、午前5時前にテントや荷物をデポしたまま赤倉岳を目指す。
雪が締まっていたので、出発時からアイゼンを装着。
サクサクと雪上を歩く感覚が心地良い。
何度か アップダウンを経て、雪が緩むと崩れ落ちそうな雪のリッジを歩いていくと、赤倉岳のピークが見えてきた。
一部、藪が出ている場所もあったが、昨日の至仏山からの下りに比べたら、藪漕ぎと呼ぶのが烏滸がましいよう。
赤倉岳は双耳峰のようで、やや手前のピークの方が標高が高そうだ。
過去に取り付けられたブリキ製の山名板を探すと、既に文字が消えている。
その上から木を傷つけないように山名板を設置した。
チームリーダーが木彫した木製の山名板、うん、なかなか味があって良い。
双耳峰のもう一方のピークにも足を伸ばしてみると、ゼブラ模様のハナコ(八海山、中ノ岳、越後駒ヶ岳)のお出迎え。
GW前半に登ったマイナー12のネコブ山と共に、熟達者に選出された山だけあって、ここまでのアプローチを含めて素晴らしい眺望だ。
ひとしきり赤倉岳山頂からの眺望を楽しんだ後は、ススヶ峰のテン場に戻ってテントを撤収。
天気も良いし、時間的にも余裕がありそうなので、白沢山手前辺りに幕営地を移し、空荷で平ヶ岳のピークを取りに行く。
歩いていると、Tシャツ1枚でもジワッと汗をかくような気温に、前日に2L作っておいた水の費消量が気になるところだが、何とか持つだろう。
ススヶ峰からやや進んだところに、幾つかの池塘が現れた。
雪が残っていても見られないし、雪がないとアプローチで難儀するという幻のススヶ峰湿原だ。
そして、幾つかののトラバースや、ちょっとした藪漕ぎを経て、眼の前の雪原に平ヶ岳の勇姿が現れる。
私にとっては2回目の平ヶ岳。
前回来たのは6年前の盛夏。
奥只見シルバーラインの隧道の曲がり角を通り過ぎてしまったり、あの長いクラシックルートと暑さに苦しめられた記憶が蘇る。
例年よりも1メートルほど雪が少ないと言われる平ヶ岳の山頂からは、白毛門から中ノ岳まで続く上越国境稜線の眺望。
更に雪山の経験値を積み、いつしかあの稜線を自分の足で歩いてみたい。
そんな想いを抱きながらテン場に戻り、今日も水作りと宴会。
20kg以上の荷物だと動けなくなることは分かってはいるが、もう少し酒と肴を持ってくれば良かったと思うほど、あっという間に夜の帳が下りていった。
【Day-3】
縦走3日目、午前3時に起床。
朝食とテントや荷物を撤収し、午前5時前に鳩待峠に向けて出発する。
雪が締まっているので、出発から1時間ほどはアイゼンを装着した。
前日に平ヶ岳のピークを取りに行った事からスケジュールに余裕がある。
沢沿いの雪の量が気になるところだが、何とか午前中のうちには鳩待峠まで着くだろう。
進行方向左手には、景鶴山の眺望。
ここも未踏の群馬百名山の一座なので、来シーズンには機を見て取りに行きたい。
大白沢山近くのジャンクションピークを過ぎ、ススヶ峰南東の尾根からワル沢の右岸へと降りていく。
途中から雪が消え、巡目の笹の藪漕ぎ。
そして、スノーブリッジの落ちた沢沿いを高巻いたり渡渉したりと、ルーファイしながら進んでいく。
至仏山北面の苛烈な藪漕ぎ比べ、冒険心を擽るこれくらいの藪漕ぎが丁度いい。
山の鼻が近くなり、尾瀬定番の木道が見えると、一変してリゾートの雰囲気。
水辺には水芭蕉が可憐な花を咲かせている。
この時期、尾瀬で見るのは初めてかもしれない。
花言葉は「美しい思い出」。
しかし、今後、暫くは尾瀬や至仏山の景色を見ると、美しい思い出とは程遠い遥かな藪漕ぎが思い出されることは間違いないだろう。
【epilogue】
奥利根最深部を巡る2泊3日の残雪期の雪上テント泊縦走。
無雪期であれば、基本的には決められた登山道しか歩けないが、雪があれば、山も森も険しい崖さえも、どこへでも行けてしまうというスノーマジック。
その反面、天候や雪の状態等によって、同じトレースを歩いたとしても、難易度は大きく変わり、時として、命の危険にも晒される。
そんな自由で創造的な登山の先には、簡単には見ることの出来ない上越国境の素晴らしい景色が広がっていた。
山行スタート時、ザックには20kg前後の荷物が入っていた。
山行を終え、今回のレポを書きながらザックの重さを計測してみたところ、更に多くの思い出や経験等が詰まり、スタート時よりもずっしりと重くなっていたことは、ここに記しておきたい。