映画「帰れない山」 「銀河鉄道の父」を観た夜、「帰れない山」を観た。上映時間147分。長い映画だった。セイオさんがYAMAPモーメントで紹介されていたが、やはりベストセラー小説の映画化だそうだ。都会育ちの少年ピエトロと山麓で牛飼いをする少年ブルーノの物語。この二人の少年がやがて成人してから再会したあとが物語の中心だった。父親に反抗したピエトロの生き方を見て、「そんなに人生を大袈裟に構える必要はないよ」と言いたかった。人生は短い、人生は動く、人生はすぐ終末になる、が今の僕の気持ちだからだ。ま、ピエトロは裕福な家庭に育ったからゆえの不満と葛藤のすえ、ネパールに自分探しの旅をして生涯の伴侶となる女性に出逢う。そういうのが多くの人の人生なのかもしれない。だが、もっと平凡な人生のほうが大多数だと思う。 一方、ブルーノは「山の民」として高等教育も受けずに生きていく。そして、亡くなったピエトロの父親との約束を果たすと山小屋作りに取り掛かる。その山小屋作りを手伝うのはもちろん「自分が何を求めて生きているかがわからない」ピエトロだった。この二人の生き方、暮らし、家族観のほうが、「銀河鉄道の父」より「家族」を描いていると感じた。「家族愛」を描こうとした「銀河鉄道の父」よりも、「帰れない山」に「家族」を感じることができた。父親への反発、母親に対して「クソババア!」と叫びたくなる時期があった。父親がいて母親がいるだけでしあわせなのに、それに気づくのはみんなが死んでからだ。 ピエトロはネパールで出逢った女性と家族をもち幸せを築く。先にピエトロの友人と結婚して娘に恵まれ幸せな暮らしをしていたブルーノが金銭的な考えの違いから別居離婚をして孤独のまま大雪に遭遇して死んでいく。「今」の幸不幸は永遠ではないこと、時間は動いていること、そして現世での時間は短いことを再認識させてくれる映画だった。上映時間は長かったが、いろいろ感じたり考えることは多かった。これが映画の醍醐味だよ。それと音楽が素晴らしかった。北イタリアのモンテローザ山麓という場所が舞台だったそうだが、その山々の光景と音楽がコラボしながら、素晴らしい空気を醸し出していた。最後のブルーノの死体を食べるカラスは、ブルーノが望んだ鳥葬として描かれたのだろうか?小説を読んでみたいと感じた最後の場面だった。 夜9時に久山トリアスシネマに入館した。11時前にトイレにいくと館内に誰もいなかった。スタッフの姿も見なかった。で、「帰れない山」を見てるのも僕一人、貸し切り状態。上映終了間際の映画を観ると貸切状態で映画を観ることが多いが、久山映画館全体が貸切状態みたいで少し不気味だった。 追記。僕は山頂からピエトロが「ブルーノ!」と叫び、屋根上で作業をしていたブルーノが「オーーーーイ!」と応える場面が一番好きだった。俵万智の短歌「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさを、ふと思い出してる僕がいた。 本当に大切なものは無くしてから気付く。

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