8月1日に木下小屋に入り、そこから羅臼岳、三ッ峰、サシルイ岳、オッカバケ岳、南岳、知円別岳、硫黄山と知床半島を歩きました。サシルイ岳から雪渓を下り沢に入ってすぐヒグマと遭遇しました。深い沢で水量も多く蛇行しています。足下に神経を集中して右に曲がり前方の視界が開けた時でした。距離は10メートルくらいだったと思います。大きな岩と並んで茶褐色の巨大な塊が目に入りました。「熊だ」「でかい」血の気がひいていくのが分かりました。熊はこちらに背を向けていました。ゆっくりと後ろに下がって20メートルくらいの距離をとりました。熊スプレーを握りしめ、熊鈴をゆっくりとならしました。沢を流れる水の音が大きくて気づくのに時間がかかりました。すっとこちらに顔を向けました。目が合いました。耳に赤いタグが付いていました。熊は私たちの存在に気づくとゆっくりと沢の斜面を登っていきました。写真を撮る余裕はありませんでした。足跡は写しておきました。熊は人間に対して敵意を持っている様子はありませんでした。今回、熊が反対を向いていて私たちが先に発見したのと、びっくりさせない距離を確保できたことでお互いの命を傷つけ合うことにならなかったんだろうと思います。羅臼から縦走路に入ったのは自分たちを含めて8パーティーでした。お互いの距離や時間に大きな開きはありません。しかし、熊に遭遇したのは自分たちだけです。いつもいつも、近くですれ違っていただけかもしれません。自然の中に入り込む時にはそれなりの準備とお互いにびっくりさせないための努力をしないといけないと痛感しました。硫黄山に立ち知床半島の先端を見ながら、自然について改めて考えさせられました。目と目が合ったとき「うるせーなあ」って言っているような気がしました。  ヒグマと遭遇するまでは「もし、遭遇したら、スプレーや大型の刃物で闘って」なんていう奢った感情もありました。でも、それはあまりにも幼稚な考えだと、彼に会ってわかりました。V字谷の底、しかも急斜面。逃場はありません。岩よりも大きく金髪の彼は神がかって見えました。某スポーツショップ入口にいるクマより一回りもふた回りも大きく迫力がありました。自分の命は完全に彼の手の中でした。生き残る為には相手に自分の存在を知らせるしかありません。ゆっくりゆっくりと後ずさりして、おどかさないよに、気づいてもらえるように、鈴を鳴らしました。今でも冷や汗が出ます。(2015年8月)

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