「或る山行」 2020-11-29

2020.11.29(日) 日帰り

活動データ

タイム

06:26

距離

6.5km

のぼり

594m

くだり

595m

チェックポイント

DAY 1
合計時間
6 時間 26
休憩時間
2 時間 13
距離
6.5 km
のぼり / くだり
594 / 595 m

活動詳細

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chapter1:夜明け前 「着く頃には明るくなるか…」 そんなことを考えながら、まだ夜も明けぬつづら折りの山道へと車を乗り入れる。 「ん…今朝は一段と冷えるな…日が昇って少しは暖かくなるといいけれど…」 ずいぶん前からつけっぱなしの暖房は乾いた音をたてて回っているのに、車内の空気は冷えたままびくともしない。暖房の非力さをうらめしく思いながらも暗い連続カーブを何度も切り返していく。 やがて山の中腹に差し掛かり、目的の登山口にほど近いカーブで、ふいにあたりが白んできた。あまりに唐突に視界が白くなったせいで、対向車のハイビイムに目が眩んだのかと思うほどだった。眩惑を受けた目を細めながら車を路肩に寄せ呟く。 「休もう…少し眠たくなってきた…」 東の空を橙色に焼きながら射し込みはじめた暁光をまぶたの向こうに感じながら、上掛けにした上着の襟を鼻まで引き上げると、そのままふわりと微睡みにおちていった。 短い夢を見たような気もするが、それを思い出すことはないのだろう。 寒い寒い初冬の朝だった。 chapter2:シャッターチャンス 「構図なんかわからない…」 「真っ白になる…」 そんなようなことをぼやいていた。 ファインダーを覗いてみたり、なにやら設定を変えてみたりしながらシャッターをきる。 何度も…何度も… 吊り橋の真ん中にうずくまったり、滝の前の岩に登ったりしながらシャッターをきる。 何度も…何度も… 歩く後ろ姿をフォーカスしたり、離れたところからズームしたりしながらシャッターをきる。 何度も…何度も… 記憶に刻むように、時を止めるかのようにシャッターをきる。 何度も…何度も… シャッターチャンスはほんの一瞬、それを逃さぬようにシャッターをきる。 何度も…何度も… 何度も…何度も… その小さな写真家は、まるで刻一刻と過ぎる時を惜しむかのように、ひたむきにシャッターをきっていた。 決して留まることのない時の流れの中で。 chapter3:冬空の下で 歩き続けて少し上気した顔に、ひんやりとした粒が当たるのを感じる。 「雨か…」 「いや、違う…」 「うん…雪だね…」 立ち止まり見上げれば鉛色の雲が広がり、空はすっかり冬の表情で、ちらちらと小さな雪の粒が舞い落ちてきた。 今年最初の雪だった。 chapter4:隠し味 ねぎ、きのこの類い、 皮も脂身もない鶏肉を少し、 そしてどこにでもある出汁で シンプルに仕上げた一杯のうどん。 そこにほんの少しの隠し味。 それは魔法のような隠し味。 そのレシピは… chapter5:欠けた月 歩き疲れた身体を深めに座ったシイトに預けながら、市街地へと抜ける街灯もまばらな川沿いの道に車を走らせる。特段帰りを急ぐ理由もないし、かといって寄り道をするような気分でもない。快適なスピイドで暗いワインディングを走り抜ける。 窓を流れる景色は1日の終わりを感じさせるには十分な速度を保ちながら、遥か後方へと飛んでいく。それでもぼんやりと今日の景色や言葉、そしてその瞬間の感覚を思い返してみれば、そのどれもがまだあたたかく鮮やかだと感じる。 街灯もネオンサインもないのに辺りが変に明るいのは、きっと月明かりのせいだろう。窓の向こうにかかる月が遠慮もなしにずけずけと覗きこんでくる。こんなに月の光に晒されてしまっては、薄っぺらい胸の内や大して深みもない腹の底まで照されて、心の影まで見透かされてしまいそうな気分になる。 心を覗いたその月は ほんの少しだけ欠けていた。 そう、まるで…

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