武奈ヶ岳　S子の呪縛

今回は武奈ヶ岳。 先週の飲み会の時の事。 普段、山の事知らない相手にはあまり話さない私だが、少し気分が良くなっており話していたようだ。 「私もお山登りたぁ〜いですぅ」 と山に関して超ど素人のS子が言う。 「仕方ない、いいだろう。では来週な」 何故か私も承諾してしまい今回の地獄山行が始まった。 装備などの知識は全く皆無のS子に対し、説明など不毛なやり取りは無しにして有るか無いかを確認していく。 ・雨具は？→無し ・登山靴は？→運動靴で代用 ・ライトダウンは？→無し ・ザックは？→無し ・フリースは？→無し ムムっ！なかなかの強者である。 私も承諾した以上悲惨な装備で山に入れる訳にはいかないので、全部貸し出す事にした。 事前に一通りの装備を揃えて、行き先も初心者で登れてまた行きたくなる景観のある所を探し準備オッケー！ 私もそれなりに楽しみになって来てしまった。 最初は八ヶ岳の編笠山に行こうと前日の夜に出る話をしたところ。 「夜出るのはちょっと…」とS子。 私の下心を警戒したのか…。 ちょっとイラッとしたがまぁ、わからんでも無い。 仕方なく行き先変更し、霊仙山を計画。 早朝に出る約束をする。 待ち合わせ場所を指定すると 「わかんなぁ〜い」とS子。 こいつはバカなのか？と思いながら地図を張り付けてやると 「り！」で帰ってきた。 ……馬鹿にしてやがる…。 まぁ、まぁ。若いし仕方ないか…。 いよいよ前日、携帯に連絡が入った。 「最近寒いから風邪ひいちゃったみたい(๑´ڡ`๑)てへぺロ♡」とS子 て　　へ　　ぺ　　ろ⁉️ ………私は耳が痛いほどの山の夜中の静寂の様に闇に包まれた……。 携帯片手にフリース状態が暫く続いたが、頭はフル回転し弾けた。 松田優作バリの「なんじゃぁ！こりゃー！」をかました後、長渕剛バリのローリングキックを準備したザックに喰らわした。 私も大人の人としてこのままでは良くない…。 まず、落ち着くため1人部屋の隅っちょで座り込み冷静に考えた。 ん❓ん⁉️んんっ‼️ よくよく考えてみたら始めからおかしい。 装備、出発時間、待ち合わせ場所…。 アホにも程がある。 あれは始めから行く気なくて、俺からのお断り待ちしていたのか？ はっとした瞬間、頭は真っ白になり私は空っぽになった。 やられた…。完全にやられた…。 大人の態度を取ったつもりが…。 私の存在は無となり完全に気配を消した。 すなわちどうなったかと言うと、酒を飲んで気分が良くなった私は山に行く約束をする。 S子は行く気が無く、なんとか理由付けて中止にしようとするS子に対し私は意地でも行こうとする変態おじさんを演じてしまった。 こんな事ってあるのか…。 恐ろしく恥ずかしい状態。 忘れたい！こりゃ忘れなければ！ 無かった事にするしかない！って事で日帰りで、早朝出発で行ける武奈ヶ岳に行く事にした。 S子の呪縛を払うべく私は休憩する事なく登り続けた。 頭真っ白になるまで登ってやる！って思って突き進むが、こんな時に限って体調万全。 ガンガン登っても絶好調。 なかなかS子の呪縛から解放されず落ち込む。 少し遠回りして、しまいには走り出す。 ワサビ峠越えた辺りは紅葉もあり、少しずつ呪縛から解放されて山行を楽しめてきた。 しかし、油断すると思い出してしまい走って紛らわす。 後半からは踏んだり蹴ったり。 イクワタ峠でお昼にするも今日のビーフシチューは前回山行の残り物。 大丈夫でしょって持ってきた。 熱湯でボイルし、一口。 ん、腐っとる。 ビーフシチューは諦め、アルファ米にミネストローネぶっかけた飯に変更。 うまくも無く、まずくも無く。 ササッと飯を済まし、何も無かったかの様に立ち去る。 残りは下りのみ。 サクッと降りて帰ろう！ 最初は調子良く下れたが、前半の追い込みが仇となり膝が笑ってる。 ゆっくり降りたいが傾斜があり過ぎず、なさ過ぎず、走るには丁度良く、走り出したら膝が笑ってるから力が入らず、止まることが出来ない。 疲労は溜まる一方で、走りを強制され、時折tree（木の枝）ラリアットが飛んできて避けるのが大変💦地獄の下りとなった。 コースタイム1時間40分のところ、40分と時間が地獄を物語る。 なんとか下りきったら今度は林道地獄。 疲れ切った足で1時間以上の林道歩きは拷問以外の何物でもない。 本当にキツかった。 なんとかS子の呪いは忘れることができたが、記憶に残る山行になった。 その後、S子から連絡がないのは言うまでもない…。 おしまい