赤岳

八ヶ岳に雪が降ったと聞いておじさんはときめいた。仕事から家に帰って風呂だけ入って中央道にいつも通り吸い込まれて行った。 今夜は道の駅小淵沢で寝る。 俺は八ヶ岳に登る時はいつもここで次の日の作戦を練っている。 そして車の中に転がっていた自分で買ったかもわからない缶詰を食べながらビールを飲んでいる。車の中で夏を軽く2回は越しているはずだ。 しかしそこは缶詰だ。車に転がっていた謎の缶詰は俺に不安を一切与えずにビールと一緒に俺の腹の中に流れ込んで行く。俺は歳を取ったが信じる心は失っていない。缶詰を全力で信じると缶詰は静かに俺を受け入れてくれる。 バカな奴はすぐに賞味期限を気にするが賞味期限など見たらそれこそ缶詰に失礼だ。女性に年齢を聞く様なものだ。そいつの個性を見出し賞味期限など聞かずに黙って受け入れる。これが男の礼儀作法と言うものだ。 缶詰の賞味期限などあってない様なものだ。 ただ少し思ったが俺は今缶詰なんかの肩を持ってる場合ではない。 缶詰の事を考えるより明日の作戦を練らなければならない事を思い出した。