活動データ
タイム
11:51
距離
21.9km
のぼり
1915m
くだり
1905m
活動詳細
すべて見る悪戯(いたずら)の話 いつもの登山でのこと、歩きの途中で靴紐が解けて(ほどけて)しまうことがある。毎回必ず2度3度それも決まって左の靴紐だけで、気が付けば解けて引きずる靴紐に、またかとため息を吐き結び直して訝しむ(いぶかしむ)。今度こそとしっかり強めに結んでみるが暫くするとまた同じことを繰り返していて、何故なんでだろうかと小首を傾げ(かしげ)考えてみた。 そう言えば脳裏に浮かぶことがある。昔、知り合いの修験行者様から聞いた話だが、山に入る時は必ず山の神に挨拶(あいさつ)をしてから入山するそうだ。 山での突然のアクシデント!あり得ない事柄が身に起こる不思議、落石や転倒転落による怪我や道迷い、これらはどうやら餓鬼(がき)の仕業(しわざ)らしく、和尚(おしょう)の教えに倣い(ならい)柏手(かしわで)を打って手を合わせ、これから山へ入りますどうか安全にと唱えている。 たかが靴紐でも餓鬼の悪戯(いたずら)が怪我へと繋がることを悟り、邪気を払い、どうか安全にと心で願いながら今日の山の話をする。 平ヶ岳である。 群馬と新潟の県境に聳えるこの山は、なだらかな頂きに池塘が数多く点在する高層湿原が広がり天空の楽園の様相を呈し、日本百名山のひとつとして東日本を代表する名山である。しかし、この山に登るのは容易くは無い(たやすくはない)。 平ヶ岳へ登るコースはレギュラールート1本のみだが、自然保護が徹底され山小屋や避難小屋も無く、20kmを超す行程を標準コースタイム12時間も掛けて登る日本百名山の中でも日帰り登山屈指の最難関と言われている山。その山へのチャレンジにワクワク感が収まらず久しく無かった興奮を覚えて前日から眠る事もままならないのだ。 始まりは、まだ陽が上がる前の暗闇の中、ヘッドランプの明かりを頼りに歩き始めている。山に行けば何度となく繰り返されていることだが、歩き始めの一歩に興奮は最高潮となり吐く息も短く身震いをしている。こんな時は、さて!と短く声を発し深く息を整えて登山道に足を踏み込んで行く。沢を渡って間も無くから勾配を上げ、馴れぬ体が悲鳴をあげて汗を吹き出している。月も雲間に隠れ指先さえも見えぬ暗闇の中、このコース唯一注意の必要な岩稜混じりの長い痩せ尾根が待ち構えていて、必死で越えて更なる急登を上り切ると下台倉山の頂上に着く。ここまで2時間を費やするも、まだ始まったばかりだというのに予想を超える登りの辛さが体に残り、足にも震えが出る激しさだ。まだまだ先は長く振り返り見る景観も申し分ないその中に、まだ届かぬ尾瀬の百名山「燧ヶ岳」が少しだけ姿を現していた。 これより尾根道は南へと向かい、細かなアップダウンを繰り返して中間地点となる台倉清水を過ぎれば辛い登りも緩和され泥濘(ぬかるみ)の多い樹林帯を進むのだが、途中から木道が設置されて緩やかな尾根道は思いのほか快適に足を進めている。 樹林帯を抜け笹尾根を登り灌木帯を登り切れば目の前の視界が一気に広がり池ノ岳に到着する。晴れの日ならば青空を写し込む池塘が多く点在し、思わず見惚れて声を失う。あ〜!来て良かったなと心に思う風景が目の前に有る満足に、ここまでの辛い登山の疲れが一瞬消えて無くなっていて、その場に立ち止まりゆるりと辺りを見回してゴクリと息を呑んでいる。 気が付けば湿原の草紅葉を突き抜けるように木道が続き、目線の奥に広がる笹原に包まれてなだらかな山容が目指す平ヶ岳だが、まだ遠い道のりも緩やかに登り切れば久しく焦がれた山の頂きとなり、山頂標識にそっと手を触れ感動で心が震えている。 まだまだ頑張れる歳、やれば出来るのだと感慨に浸りこれからの帰路を辿るのだが、この先には長く険しい道のりが待っていて油断など何ひとつも出来ないけれど、冷たく吹く秋風にそっと背を押されて一歩を踏み出してみる。 急遽決めたタマゴ石散策の時間を足しても目標の12時間を下回る奮闘に、下山後の疲れた体が悲鳴を上げていたが、帰路に立ち寄った銀山平温泉に癒されて、この後4時間を掛けて家路を辿るのである。 今日もおつかれー!頑張りましたね!と自画自賛をしている。 ふりかえり 苦闘の末に、やっとの思いで辿り着く山頂の三角点と山頂標識。心に残る感動の一瞬だったが、行くとプリンスルートからの登山者達がシートを広げ宴会をしていたのは残念で悔しい!登れば誰もが立ち寄るその場所なのだが、何故そこで?
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