黒岳・中岳、山越えの一人旅

お鉢平展望台でそこまで一緒に歩いて来たおばあちゃんおじいちゃんに ロープウェイ姿見駅最終までに間に合うように急いで行きなさいと励まされ、それからは真剣に下山を目指し 突き進んだが 北鎮岳分岐の登りを見上げると心が折れ、だが、これを乗り越えなければ この広い山の中に一人きりになる寂しさと隣り合わせの気ままな一人旅だ ゆっくりでものろくてもこの一歩を進めることしかないのだ 五分歩いては重いザックを岩にもたれ掛け、2分座るを繰り返し、ようやく人影の見える北鎮岳分岐が迫って来た そこは黒い雲が流れて冷たい風が強く吹いている 仁王立ちした、亡き父親の若い頃の風貌に似たサングラスのおじさんが 私が着くなり、 そこ、雪渓ある？ 全然ないけど？ 雪渓あるならたいへんだから嫌だな、と思って。今日はこっちから回ってきたんだ。 旭岳から来て黒岳で降りて層雲峡で一泊して明日、黒岳から旭岳に戻るんだ。 えっ同じ同じ と、私も自分を指差し、昨日から旭岳を登り黒岳を降り、層雲峡で一泊し、今朝、黒岳を登って旭岳へ降りるところ と、言うと、 へー同じかーどこ泊まったの？ ロープウェイ降りたらすぐのところ 俺はね、今までは、毎年来てるんだけど、ユースホステルに泊まってたんだけどやってないでしょ？ うん、知らないけど？ だから今日は初めて泊まるとこなの えーっと名前は、なんだっけ？こんな感じの名前で、こんな感じの宿！ それは〇〇かな？ そう！そこそこ！どんな感じ？ いやいや泊まったことはないけどホームページで見る限りでは若者か、ファミリー向けなんじゃないかと思うけど おじさんにはあずましくないんじゃない？ え？？？なに？ あずましくない、落ち着かないってことさ へーそんなふうに言うの？ 北海道の人はいいよなー道民割り！ 関東の人間にはうらやましいよ 道民割りで部屋取ったの？ いやいやそこは取れなかったけど でも穴場だよ 朝はいくら食べ放題だよ！ 俺、いくらは全然食べなくていいんだ なにさーいくらって言ったらみんな飛びつくのにー いや俺はいくらはそうでもない、でもいい宿教えてもらった、次、来るときはそこ泊まるよ、ありがとう 毎年くるからさ でも今日のところは大丈夫かな〜心配になってきたな〜 新しいところだからおしゃれなんじゃない？今度会ったらどんな感じだったか教えて！ と、言うとおじさん一瞬言葉に詰まって おう！と言ったが、私はニヤニヤして 二度と会わないかもしれないけどね❗️と言うと、 なーんだよ、もう と笑う この黒い雲が流れて冷たい風の吹きさらす中でのなんともいえない明るい会話に気分が紛れる やっぱり辛い気持ちの時に 父親に似た人が現れ、話しかけてくれる まだ、声の出せない父親の霊が 健康な体を持った肉体を借り、娘を心配してこうして話しかけてくるのではないか？と本気で思うのだ そしておじさんと別れると、やっぱり少し泣けてくるのだ