58 四国遍路旅日記 長尾寺〜前山お遍路交流サロン〜大窪寺

2019.11.25(月) 日帰り

活動データ

タイム

05:37

距離

16.3km

のぼり

767m

くだり

375m

チェックポイント

DAY 1
合計時間
5 時間 37
休憩時間
1 時間 8
距離
16.3 km
のぼり / くだり
767 / 375 m

活動詳細

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八十八番札所大窪寺を目の前に、やったぜと言う気分。しかし、大窪寺の後ろには、ラスボスがいて不穏な空気を漂わせる。合計、五本の虎ロープを独自の判断で登って行くなんて、レスキュー隊じゃん!手強そうや、ラスボス別格大瀧寺! 闇が明け、讃岐山脈が頭角を表す。 終わりを知らない登り道に、大概にせぇと吐きたくなる。ダムが見えて来て手前には、白塗りの表示板があり、朱赤の文字が毒々しくある。大窪寺までの所要時間や工程が、ぎっしりと書かれてあるが、少し重い気がした。 前山ダムのたもとには、前山お遍路交流サロンがあり、歩き遍路限定バッチが頂ける。馳せ参じたら開店前なのに肩肘を付いて道を聞く、異質な雰囲気の若者がいる。「女体山コースは、岩場が多く、雨で滑り易く危険、ダンプの往来に、うんざりさせられるが、旧へんろ道を行かれた方が良い」と係の人が言う。こんな説明、耳にするんじゃなかった。この日の夕食後に、女性客が「女体コースって、とても素晴らしい所、今まで生きて来た中で、一番美しい景色やった」と語る。若いくせに、人生論みたいな、言い草をするんや、怖気(おじけ)付き、行けなかった自分が、余計に恥ずかしい。 そんな事とは知らずに、大窪寺へ歩き出す。あの若僧が不安気に「どちらへ行かれます?」と尋ねて来る。その身なりを見て、貧乏神かと思った。脂まみれのボサボサ頭に、煤けて汚れたTシャツ、履き古した靴は、先がめくれて五本指が覗いているじゃないか、ドンびくわ!関わりたくなかったので、旧遍路道の方角を指して、再び歩き出す「そや!思い出したぞ」二週間前、今治湯ノ浦温泉で、東屋で呑気に眠りこけていた奴だと分かる。劣悪さに目を背けた事を思い出す。 旧へんろ道では、上から下から、砂埃りを巻き上げて、引っ切り無しに大型ダンプが通る。強面(こわおもて)の猛者に戦々恐々だったが、優しく道を譲ってくれた。飴と鞭(むち)ってやつだろうか、粋な配慮に無限の善意を感じるのって、月の輪熊に、オデコを撫でられる様なものか、違うか! 森の中では、大規模なダム工事が行われていて、ダンプカーが次々に、谷底へ向かって吸い込まれて行く。まるでダンプの墓場に、列を成して、向かうような雰囲気がある。重機の音が五月蝿かろうとも、坂を数メートル上がるだけで、五感が鎮まる程の静寂な森へと還る。このキーンが心地良いのだ。すると、後ろから慌ただしい勢いで、あの若僧が駆け抜ける「お先に!」とか、口走っていたのだろうか、早く過ぎるから、声が聞き取れない。片方の手には、バランスが悪そうな大きな鞄を揺らしながら、足の指は、はみ出たままに、高速で駆けて行くなど、野人としか思えない。あっという間に、消え去っていった。 山を越え、相草公民館が見えたので、トイレ休憩をする。湯気を浴びて、漠然と見る大銀杏の凄さに圧倒される。公園には、ゴールデン·エリアがあり、ベンチに座ると、イチョウの葉がハラハラ舞い落ちて来る。いつまでも居たくなる情景に、離れ難くなる。靴ひもを締め直し、大銀杏とサヨナラする。深い山々と、のどかな田園風景がどこまでも続く。人っこ、ひとりいない、農道に終わりはないのか、通り雨が来たら軒先などで、雨宿りをしながら、大窪寺に倒着。紅葉は、今が見頃であろう。満願を祝して見るのも良いが、別格大瀧寺を終えてからにしよう。心置きなく楽しめるよう、紅葉は取って置く事にする。有名な田舎うどんが、どうしても味わいたくて、夕飯前だが食べてから、民宿八十窪へ行く。 案の定、晩御飯を食べたら、自慢のお腹に、ビールが入るスペースはない。八十窪さん、二日間、お世話になるので宜しく。ここの八十窪のお婆さんは有名な方で、新聞やテレビにも、取り上げられた凄い女性、経歴を聞いて驚かされる。戦後まもなく、貧しいが故にお金がないと言う理由で、十代の小娘一人に、四国遍路に旅出させたと言う。今のように、親切丁寧な標識も、整備された道路も無く、灯りも灯らない淋しい山道を、間違えては、引き返しを、幾度となく繰り返し、一年以上掛け満貫を果たしたと言う。生娘だから、恐ろしい場面にも遭遇された筈、それをすり抜けてこられたんだから、本当に凄い事だ。免許証を取られてからも一人、泊まらないで日帰りを繰り返して、遍路を完結させたとも言っていた。この女性はどれだけタフなんだ。今は、90歳のお歳だと言う。岡田屋のお爺さんもそうだが、四国お遍路の名物御老人、お二人にお会いできたのは、本当に有り難い。それに根香寺近くで店を営む、みち草のお婆さんに出会えた事も嬉しかった。いろんな方に、引き合わせたのは、上から見ている母の力では、なかろうか、やはり、出会えたのは、偶然なんかじゃないと思う。

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