55 四国遍路旅日記 白峯寺〜根香寺〜別格香西寺〜鬼無駅

2019.11.22(金) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
8 時間 2
休憩時間
7
距離
20.8 km
のぼり / くだり
854 / 873 m
8 2

活動詳細

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昔から白峰山は、サヌカイト(讃岐岩)が取れる山として有名で、金属音がする程に緻密で硬く、楽器に使われている。旧石器時代では、包丁としても使われていた。14000万年前 八十場(やそば)駅から、白峰山に入り下りて来たと言う男性が「途中、滅茶キツい階段があるから、気〜つけや」と、夕飯どきに話していた。 平坦だった道も山道になり、丸太の階段が現れ、一段とキツさが増す。延びる丸太階段に憎さも倍増、そんな階段を二箇所越えた矢先に、昨日彼が言っていた垂直な階段が来た。流石にキツい!息が荒れて汗が止まらない。 五色台スカイラインに出たら、風に晒され、濡れ鼠な私は急冷されて、お腹が冷たい。ピーヒャララは駄目だと、Tシャツの中にタオルを詰め込んで、温まるのを待つ。道脇のスペースに巨樹の狭間で、草木がひしめき合って、赤や黄、オレンジと多彩に色付いている。癒されるわぁ〜 その先に、自衛隊の演習場があり、ひしひしと緊迫感が、こちらまで伝わって来る。フェンスを一枚隔て、呑気に歩いている自分は、彼等の目にどのように写るのだろうか、後ろめたくしていたら、作業を止めて「頑張って下さい」と一人の隊員が、声をかけてくれた。有事の際には、あんな若者が率先して、支えてくれるのだと思った。 自衛隊員の宿舎横を通り抜けて、森に入り、笠塔婆(下垂石)が現れる。等身大の石柱に、屋根(笠)を載せたものが傘塔婆で、寺の聖域に踏み入った事を意味する。転げ落ちるように坂道を下れば、目的の白峯寺だ。七棟門が先ず目に入る。お城の天守閣みたいな重厚さと美しさがある。珍しい高麗形式の門の左右に二塀を連ね、棟数が七つとなる。何よりもカッチョいい。 境内は、紅葉が真っ盛りだ。特に赤が濃ゆい椛の下にいる狛犬は、赤めいている。目の錯覚なのだが、照れているやら、酔っているやら楽しそうだ。そんな狛犬を巻いて石段を登ると、ひと頑張りした後の、見下ろす紅葉の美しさに、心が刺さった。 崇徳天皇陵に着くと、等身大の烏天狗像がある。自身の推し妖怪との対面に喜びも一入だが、こことの関わりも気になる。その昔、宗特天皇が、自身の怒りを爆発させて、烏天狗になったと云う。突拍子もない話しに、なんでやと首を突っ込みたくなる。 笠塔婆からは、違うルートになる。葉陰に隠れて、ひっそり閑とする山道に気持ちが落ち着く。ここは、千年前から生き続ける古道である。平安時代、紫式部が源氏物語を執筆していた頃からあるなんて奇跡だ。いにしえからの道なんて、浪漫やなぁ〜 乾いた枯葉の上をシャカシャカ音を立てるのが楽しくて、つい蹴散らしてしまう。楽しんだトレイル歩きも、もう終わり、最後の急登を登って五色台スカイラインに出る。紅葉が艶やかに萌え盛り、愛でるだけで楽しい。風が冷たく一方では、除ける場所を探していた。趣きのある食堂を目にし、近づいてみる。椅子に腰掛けて、くつろいでいるお婆さんの姿はあるものの、営業中のランプが付いていない。震えが止まらなくて、入れてもらうしかないとドアを叩いた。彼女は起き上がって来て、私を中へ招き入れる。早急に、熱い汁もんを食べなくてはならない。きつねうどんに、保険としておでんも頼んでみた。出されたのは、いい意味で予想を裏切るものだった。麺のエッジが効いていて、鼻に香る煮干しの出し汁も一流で、完璧じゃん!この讃岐うどんは、保険で頼んでおいた、おでんも舌が唸る美味さで、濃厚な出し汁の中にある飴色のスジ肉は、弾力があり噛み応え充分だ「秘伝のスープは、その都度、継ぎ足すから旨いんじゃ」とお婆さんが言う。それを聞き、はたと気付いたのは、生前の母がおでんを作る際に、言っていた口癖と同じで、共に香川育ちであると言う事だった。お袋のおでんのルーツがここだと確信する。もう二度と口に出来ないものと諦めただけに、再び出会えたこと、味覚を舌が覚えていた事に驚く。グツグツと煮立つ、おでん鍋を家族団欒で、箸を突ついた平穏な日々が、懐かしくて堪らんわ!涙腺が緩んで、鼻腔に流れ込み、塩っぱくもあるかな?ほんのり余韻に慕っていると、お婆さんが「しかし今日は、お客さんが全然、来んねぇ」と言うから教えてあげた「外の営業中ランプが、まだ付いていないよ」と、するとお婆さんは「そうかい、面倒臭いから、付けんかった」と言うではないか、面ろ過ぎるがな!和気あいあいと会話は弾んだ。歩き遍路を周らない限り、この店に辿り着く事はない。また機会があったらなどと軽々しくは言えない「元気でいて下さいね」とだけしか言えなかった。有り難うございました。みち草の文字が書かれた緑色のテナントが、遠のいてゆく。 目の前には、雑木と薮に包まれた道があり、ここも古道の雰囲気がする。便利なのは良いが、趣のある道が寸断されて残念だ。通り抜けたら根香寺の門前に出る。山門から伺う中の様子は、杜のようである。中央部には、長めの石段が居座っていて、手強く見える。山門を下りてから、また上がる石段に疲れた脹脛(ふくらはぎ)が「やめてくれ」と、ぼやいている。 境内に白猴欅(はっこうけやき)と言う御神木がある。樹齢が1600年で、昭和五十年に上部を枯らし、平成三年に根だけを残して、上部分を切り捨て、屋根が設けてある。昔、欅の上から下りて来る白い猿が、弘法大師の甥である智証大師を護り、創業を手助けしたとある。 根香寺を出ると、別格香西寺へ向かう道は、別格周りの人しか通らないから荒み方が酷く、足を取られ易い。慎重になって下って行けば、海が現れた。高台からの眺めは、絵画みたいに素晴らしく、高松港に、女木島や屋島が、潮風に揺らいでいる。この瀬戸内の海を忘れは、しないだろう。 ヒュルヒュルと、風の音しか聞こえない高台から、関そなミカン畑を下り、道なりに行けば、香西寺に着く。本堂の前に置かれた、二百余りの水子地蔵には、赤い頭巾が掛けられていて、強い念を感じる。怖くなり、直ぐに寺を出た。 車道の先に、鬼無(きなし)駅がある。この近くに、百々屋旅館がある筈だが旅館らしき建物は、周りには見当たらない。まさかとは思うが、古びた文化住宅の壁に、大きな百の字が書かれてあるのを見る。心を落ち着かせ、引き戸をガラガラと開けて、尋ねてみた。二棟をぶち抜いて、手短にリフォームだけはされてある。一体、何処が旅館なんや?断熱材もないから、家全体が寒い。案内される浴室に踏み入ると、脱衣場の壁から、冷気が入って来るし全裸になったら、サブイボは出るし、風呂場は、冷蔵庫にいるようである。身体を洗っていたら、ガタガタ震え出す有り様で、霊の通り道ちゃうんかと思えるくらいで、サッサと風呂場を出て行った。部屋は仕切り板で、二つに分けられてあり、夕食後くつろいでいたら、仕切り板の向こうで、引き戸が開く音がして、やがてカラオケが鳴り出す。女将が飛んで来て「お騒がしくてすみませんが、承諾して下さいね、向こうで店をやっているんで」とやに雲に言って来た。大人の対応で繕ったのだが「そんなんルール違反や!水商売するなら事前に、話しておかねばならない。隠したままってのは、愚の骨頂、知り得たら、スルーしていた。 おんぼろアパートに、防音設備など、あろう筈もなく、外した歌声が鳴り響いて、耳障りがする。泥酔客が置き去りにした醜態を枕に寝るなど無理だ。こんな最悪で最低な夜が、あるんだろうか、悶々としながらも、やがて眠りに着いた。

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