活動データ
タイム
22:27
距離
27.7km
のぼり
2421m
くだり
2421m
チェックポイント
活動詳細
すべて見る1日目 その日、庚申山荘には5人の登山家がいた。 ベテラン、若者二人、博識、それと私の5人。 電灯の無い部屋で持ち寄ったライトに照らされたテーブルで酒を呑みながらこんな話題になった。 皇海山が日本百名山に選ばれたのは何故か。 若者が言うには、ネットでは登りたく無い山とか、展望が無いた言われているそうだ。 博識は、山とは駅から歩いて街中にある石碑や歴史に触れ、地元の物を食べてこそ山を知ることが出来るのだと熱く語った。また、この山は猿田彦を祀る霊山で修験者の修行の場であったと続けた。 若者は、初心者がキツかった思い出を書いてしまっただけだと信じたいですねと言って、皇海山まで行けますかとベテランに聞くと、4にんはベテラン顔を覗き込んだ。 行けるよとベテランはさも当たり前のように答えた。標識があるからそれを目印に行けば大丈夫だ。 皇海山クラシックルートは、往路は庚申山からの稜線を経て鋸山から皇海山へ達し、復路は鋸山から六林班峠を経て巻道を戻るルートだ。 2日目 若者二人は今日中に下山するため明るくなった6時に出発した。 私は16時までに戻れなければもう一泊するつもりで6時20分にクライムオン。 博識は、もう一泊するつもりだからゆっくり出発する。 ベテランは庚申山に登って帰るからゆっくりと、階段の手すりに布団を干す、余裕の所作だ。 庚申山に登り初めて間も無く道を見失う、見回すと黄色と赤の三角を合わせた四角いプレートがあった。黄色が登りを示しているらしい。いつも見かけるピンクリボンはあまり無いようだ。 庚申山までは巨大な奇石や滝の裏を通る道やら霊山らしい景観が連なる。 庚申山から薬師山までは標識を見失って何本もの踏み跡がのびているところがあり迷いやすい。ここで後から来た博識が追い越して行った、驚くべき速さである。 薬師山から鋸山はアルプスを思わせる鎖場と岩場が短時間だが体験出来る。若者二人とはこの辺りから抜きつ抜かれつ進むことになる。 鋸山から下り、登り返せば皇海山である。 ガスが掛かり何も見えないが、晴れていてもここでは眺望は無いらしい。博識が早くも折り返してきた、13時までに山荘に戻ると言い残し、まるで天狗の如く飛ぶように斜面を駆け降りて行った。 皇海山の山頂に到達、鉱山開発期には禿山で見渡せたらしいが、今では樹木が苔むす神秘的な森を称えていた。 鋸山に戻り、六林班峠を目指したが噂に勝る笹である、所によっては2メートル近い笹に埋もれる。若者二人と即席パーティを組み笹に消える山道を探しひたすらに笹漕ぎ漕ぎ進んだ。 やっとの思いで六林班峠に達し、まるで来た道を戻るのかと思わせる程に鋭角に道を曲がり巻道へと進む。 六林班峠を通過して緩やかな巻道と思いきや、山の傾斜を縫うように細いトラバース道が続く、左から笹が迫り、右は踏み外せば崖の獣道を永遠と歩かされる事になる。 この巻道で時間短縮を考えていたが、むしろルート時間通り歩くのがやっとだ。 沢を3つ越えたところで、若者二人を先に進ませて別れた。あわよくば今日中に下山出来るかと思ったが私には無理そうだ。 諦めて、途中の天下見晴台に立ち寄る、雰囲気の良い見晴台だ、周囲を山に囲まれているところが、なおのことこの山の奥深さを感じる。 16時30分庚申山荘に到着、私ひとりだけの山荘だ。博識は飛ぶように駆け抜けただろう。17時には暗くなってきた、先に行った若者二人は無事下山出来たであろうか、少し心配である。 程なくして雨が降ってきた、明日は雨の下山である。 ただ、山荘にひとりは寂しい。 3日目 雨の音で何度か目覚めたが、良く眠れた。 目覚めた6時には、外はすっかり明るくなっていたが雨音は絶えない。 いそいそと朝飯を準備しているとちょうど湯が沸いたところでガスが切れた。 ポストに宿泊料2080円を投函し、猿田彦の神棚にお賽銭を投げ、無事の下山を願った。 外付けのトイレで便器に座りながら扉を開け放ち紅葉を眺めた、これはわたしだけの秘密だ。 荷物を片付けていると雨脚が増して来た。 急ぐ旅では無いので山荘を見て回ると、階段下に、一冊の読物を見つけた、我が愛する山々、手書きで皇海山と添えられている。 作中では晴天の中を皇海山まで同じ山経で登頂していた。庚申山から鋸山までの間に、赤城や日光白根、遠くはアルプスや富士山まで見渡したとあった。 樹々に覆われた皇海山こそ眺望が無くなったものの、連なる山々によって余りある眺望がそこにあったのだ。 開かれた山が良しとされる現代において、今尚、秘峰としてそびえるこの皇海山。 皇海山には、奇石、迷い道、眺望、岩場、神秘の森、笹、崖沿いの道、雨の下山、山の全てが詰まっている。 未だ閉ざされたこの皇海山に登った者は多いに語ってほしい、次に登る登山家のために。 私は思う、皇海山クラシックルートは物語だ。
活動の装備
- モンベル(mont-bell)アルパイン サーモボトル 0.5L
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