逃走論 大崩の辻を前に

2019.06.05(水) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
3 時間 21
休憩時間
1 時間 6
距離
4.8 km
のぼり / くだり
326 / 326 m

活動詳細

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 浅田彰「逃走論ースキゾ・キッズの冒険」  (1984年発刊の書物) 「男たちが逃げ出した。家庭から、あるいは女から。どっちにしたってステキじゃないか。女たちや子どもたちも、ヘタなひきとめ工作なんかしてる暇があったら、とり残されるより先に逃げたほうがいい。行先なんて知ったことか。とにかく、逃げろや逃げろ、どこまでも、だ。」    90年代の中頃、京都で大学時代を過ごした(京大じゃないです。念のため)。文化系の学生の間では、京大の研究者だった浅田彰が現代思想最高の知性として、もてはやされていた。  二十歳の俺は、この人の言うことが気にくわなかった。その思想が、中年の無理な若作りに聞こえて、恥ずかしいおっさんだと思っていた。  おっさんになった私は、山を歩くようになった。  憧れのくじゅうの、ほんの入り口を歩くことにした。本当は男池から平治岳に行きたかったが、家からバイクで片道2時間、夕方5時には出社して大切なミーティングをしないといけない。  諦めて、黒岩山から大崩の辻を目指すことにした。  大崩の辻、webで調べたら、訪れる人も少ない、良さそうな場所だった。ヤマップの道も破線のマイナー感が漂っている。  なにより、名前がいい。  大きく崩れた辻。  そりゃあ、生きてたら崩れることもあろうよ、と思いながら歩いた。  歩きながら考えた。  山歩きって、浅田の言ってた逃走みたいだ。  昔、浅田信者みたいな京大生と話してたら「逃走論における逃走とは、単純に逃げることじゃない。特定の価値観に捉われることを、積極果敢に拒否することだ」と言ってたが、「そりゃ知ってるけど、疲れたおっさんの弱音だろ」と笑って否定したことを思い出す。  でも、山歩きは逃走に似ている。色んな意味で、娑場にいたくないから山を歩く。山から帰ると、街の渋滞とかセセコマシイ景色が、気味悪く思ったりする。  街なんて、嫌だ。こんなキモい場所に絡め捕られるなんて、ツマラン人生だ、とも思う。  あれ、これやっぱり逃走じゃねえの?   「私も疲れたおっさんになった疑惑」が拭えない。けれど疲れながらに、粘る私の心は「いや、違うね。譲らないために、山で息継ぎしてんだろ」と反論する。  私は、白髪が生え始めた頭を捻って、破れかぶれな気持ちになって、大きく崩れた辻を目指す。  黒岩山はいいところだった。  くじゅうの中では初心者向けで、初心者はそもそも、くじゅうに来ないのだろうから、人が少ない。集団というのが大嫌いな私には合っている。しかも、山が深く連なっていく雰囲気は味わえて、とてもよい。  暑いのを我慢して、私は進む。    やがて、ヤマップで大崩の辻への分岐点に差し掛かったことを知る。  寂しく破れかぶれな場所を想像して、ワクワクしながら歩を進める。  GPSで確かめる。道が逸れている。  戻る。  確かめて、進む。  また、逸れる。  暑さに苛立ちながら、負けじと進む。木々の下を潜る。低い藪を踏み分ける。  やがて、踏み跡が完全に判らなくなった。  汗が滴って気持ち悪い。タオルで拭うことにする。タオルが無くなっていることに気づく。webで取り寄せた2000円くらいするガーゼ生地のタオルなんですけど、と文句を言おうと思ったが、まわりには誰もいない。しょんぼりする。  時計を確かめて、これからの道筋を考えると、もう戻らないと夕方のミーティングに間に合わない。私が仕切る話し合いなのに、遅れるわけにはいかんでしょう。    私は撤退することにした。撤退とは、逃げることだと思った。浅田の逃走を思い浮かべた。  いい年こいたおっさんが、スキゾ・キッズ気取るんですか。  そう思うとばつが悪い気がしたが、逃げる目的を考えた。  無理して道迷いしないため、大事なミーティングに遅れないため、と思いついて、浅田さん、それ、やっぱりおっさんの理屈ですよ、と、おっさんの私がツッコミを入れていた。  後日談  帰って、久し振りにwebで浅田彰をググった。27才の気鋭の思想家だったこの人も、還暦を過ぎて、どっかの大学院長に収まっていた。  逃走論を振り返って 「冷戦終結以降、急速にグローバル化した資本主義の力は恐るべきもので、逃走の試みの多くは資本主義にのみ込まれた」なんてことを言っていた。  続きがあるようだったが、疲れていたので読むのを止めた。  それからなぜか、浅田さん、どうか頑張ってください、と邪気なく願った。  

九重山(久住山)・大船山・星生山 雲と隣り合う。阿蘇ミルクロードの途中
雲と隣り合う。阿蘇ミルクロードの途中
九重山(久住山)・大船山・星生山 空を見上げたら、大きな雲が間近に覆い被さっていた
空を見上げたら、大きな雲が間近に覆い被さっていた
九重山(久住山)・大船山・星生山 くじゅうの入口に着いた。2時間くらいかかった。ライダーの聖地、三愛レストハウスがある交差点
くじゅうの入口に着いた。2時間くらいかかった。ライダーの聖地、三愛レストハウスがある交差点
九重山(久住山)・大船山・星生山 牧ノ戸から歩く。黒岩山に向かう人は少ない
牧ノ戸から歩く。黒岩山に向かう人は少ない
九重山(久住山)・大船山・星生山 細道を頂に向かって歩く
細道を頂に向かって歩く
九重山(久住山)・大船山・星生山 なんかクリスマスツリーを連想
なんかクリスマスツリーを連想
九重山(久住山)・大船山・星生山 たおやかな姿
たおやかな姿
九重山(久住山)・大船山・星生山 登る。暑い
登る。暑い
九重山(久住山)・大船山・星生山 振り返った。結構高い
振り返った。結構高い
九重山(久住山)・大船山・星生山 阿蘇より色が淡い
阿蘇より色が淡い
九重山(久住山)・大船山・星生山 ずっと向こうに牧ノ戸の駐車場が見える
ずっと向こうに牧ノ戸の駐車場が見える
九重山(久住山)・大船山・星生山 弾痕みたいな穴が
弾痕みたいな穴が
九重山(久住山)・大船山・星生山 開けた。勝手に「見晴らし広場」と名付けた
開けた。勝手に「見晴らし広場」と名付けた
九重山(久住山)・大船山・星生山 色彩が点々と。可愛い
色彩が点々と。可愛い
九重山(久住山)・大船山・星生山 頂上が近い
頂上が近い
九重山(久住山)・大船山・星生山 岩の頂
岩の頂
九重山(久住山)・大船山・星生山 頂上。「さざれ石の苔のむすまで」 国歌を想い浮かべた
頂上。「さざれ石の苔のむすまで」 国歌を想い浮かべた
九重山(久住山)・大船山・星生山 1502メートル。もっと高い山はたくさんあるけど、よく考えたら相当高い
1502メートル。もっと高い山はたくさんあるけど、よく考えたら相当高い
九重山(久住山)・大船山・星生山 前夜の雨でぬかるみに。まあまあ滑る
前夜の雨でぬかるみに。まあまあ滑る
九重山(久住山)・大船山・星生山 彼方に彩られた山肌が。ヤマノアナタノ ソラトオク サイワイ スムト ヒトノイウ
彼方に彩られた山肌が。ヤマノアナタノ ソラトオク サイワイ スムト ヒトノイウ
九重山(久住山)・大船山・星生山 祝福されてる
祝福されてる
九重山(久住山)・大船山・星生山 お供え花みたい
お供え花みたい
九重山(久住山)・大船山・星生山 白い枯れ木の森があった。なぜかテンションが上がった
白い枯れ木の森があった。なぜかテンションが上がった
九重山(久住山)・大船山・星生山 美しい色の数々
美しい色の数々
九重山(久住山)・大船山・星生山 潜り抜ける。大好き
潜り抜ける。大好き
九重山(久住山)・大船山・星生山 砦みたいなカッコいい岩が。フランスのエズという村を思い出した
砦みたいなカッコいい岩が。フランスのエズという村を思い出した
九重山(久住山)・大船山・星生山 なんだろう、城みたいだ
なんだろう、城みたいだ
九重山(久住山)・大船山・星生山 言葉も無い
言葉も無い
九重山(久住山)・大船山・星生山 ここで佇みたかったが、先へ向かった
ここで佇みたかったが、先へ向かった
九重山(久住山)・大船山・星生山 大崩の辻はどっち?
大崩の辻はどっち?
九重山(久住山)・大船山・星生山 道が判らない。しばらく往き来して、諦めた。ガーゼ生地の、山歩き用タオルを、いつのまにか無くしていた
道が判らない。しばらく往き来して、諦めた。ガーゼ生地の、山歩き用タオルを、いつのまにか無くしていた
九重山(久住山)・大船山・星生山 「見晴らし広場」に戻って、失意と安堵を同時に感じながら昼飯の用意。だんご麺で、うどん的なものを作る
「見晴らし広場」に戻って、失意と安堵を同時に感じながら昼飯の用意。だんご麺で、うどん的なものを作る
九重山(久住山)・大船山・星生山 だんご麺と地鶏風の鶏肉とゴボウ入り天ぷらとトロロと卵を全部まとめて煮た。旨かったが、量が多すぎて苦しくなった
だんご麺と地鶏風の鶏肉とゴボウ入り天ぷらとトロロと卵を全部まとめて煮た。旨かったが、量が多すぎて苦しくなった
九重山(久住山)・大船山・星生山 撤退。逃げろや、逃げろ、どこまでも、だ。
撤退。逃げろや、逃げろ、どこまでも、だ。
九重山(久住山)・大船山・星生山 牧ノ戸でバイク眺めながらソフトクリーム食った。ここから家まで2時間弱。さすがに疲れた
牧ノ戸でバイク眺めながらソフトクリーム食った。ここから家まで2時間弱。さすがに疲れた

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