活動データ
タイム
07:37
距離
11.2km
のぼり
926m
くだり
835m
活動詳細
すべて見る武蔵野の平野と秩父の盆地を繋ぐ奥武蔵の山々には昔から峠路が四通八達し、信仰・交易・生活の道として歩かれてきました。 現代では山中の峠路を歩くのは趣味のハイカーだけですが、山路には今も苔生した石仏たちが人待ち顔で佇んでいます。 今回は「秩父往還 吾野通り」の 旧 正丸峠から北へ稜線を伝い、サッキョ峠、虚空蔵峠、大野峠へと すっかり通い慣れた山路を辿り、石仏・石造物に御挨拶してきました。 大野峠からは南へ、芦ヶ久保川沿いの赤谷に下ります。 大人気の「伊豆ヶ岳」への起点となる西武秩父線 正丸駅に着くと、今日も駅前は多くのハイカーで大盛況。 ほぼ全員が伊豆ヶ岳を目指すと思われます。 一方、 旧 正丸峠へと向かうのは自分独りのようです。 国道を離れて集落に入ると、可愛い黒猫に出会いました。続いて、民家の軒下に3匹の猫を見かけました。皆 似たような柄なのできっと兄弟なのでしょう、仲良く身を寄せ合っています。 この集落で猫たちに会ったのは初めてで、ほっこりとした気分になりました。 子育て地蔵、馬頭観音、そして古い石道標を見て峠路に入り、吾野地区では最古の苔生した馬頭観音に手を合わせて、峠へと続く沢沿いの径を歩きます。 江戸と秩父を最短距離で結ぶ「秩父往還 吾野通り」として江戸時代中期の享保年間から盛んに人馬が通行し、秩父産の絹織物を運ぶ交易路として、さらに三峯神社や秩父札所への参詣路としても歩かれた道です。 また、この峠路の歴史は鎌倉時代にまで遡るといわれています。 今日も人影の無い静寂そのものの径路を一歩一歩無心に歩み、すっかり寂れた旧 国道を跨いで再び山路を辿ると、やがて峠に至ります。 旧 正丸峠。古称「秩父峠」。 空は一面の薄曇りで、青空はほんの僅かに覗いているだけです。 自然林の葉の色づきはまだ淡いのですが、陽射しが無いので寒々しく、晩秋の気配を感じました。 ここからは北へ、いわゆる「奥武蔵高原」に至る稜線を歩きます。 幾つかの小ピークを踏み、「サッキョ峠」を経て登降を繰り返すと「虚空蔵峠」に着きました。秩父から遥々 九州沿岸の防備に向かう防人も越えたといわれる、秩父・奥武蔵山域では最古の峠です。 峠の片隅には像容の風化が著しい年代不詳の虚空蔵菩薩が寂しげに佇んでおられます。 ここには産業観光林道「奥武蔵グリーンライン」が通っているのでバイクや自転車の通行がありますが、石仏に気づく人はほとんどいないでしょう。 少し陽射しが出てきました。 自然林の雰囲気が良い「牛立久保」に至り、一息つきます。バイクツーリングのライダーたちで賑わっている様子の「刈場坂峠」には寄らず、そのまま北へ進みます。 北東に関東平野を望む「七曲り峠」を経て、「刈場岳」の山頂から下った先のいつもの岩で昼食休憩としました。 陽射しは再び翳り、少し肌寒い体感です。もう晴れる事は無いでしょう。天気予報は外れたようです。 朝、伊豆ヶ岳に向かった皆さんもあまり展望には恵まれずガッカリしているかもしれません。 さらにグリーンラインと並行して北に歩き、「大野峠」に着きました。 古くは秩父と比企を結んで人々が盛んに行き交った山上交通の要衝であり、昭和に入ってからは「奥武蔵で最も美しい峠」とも呼ばれた峠ですが、現在は鬱蒼とした人工林に囲まれて展望も無い無味乾燥な林道交差点となっています。 路傍の草むらの中に「馬頭観世音」と彫られた江戸時代末期の立派な自然石が立っており、石の下部には左は不詳ですが右は「高山不動」を指す文字が彫られ、道標を兼ねていた事がわかります。 休憩していると丸山方面からハイカーたちが下りてきましたが、石碑は誰の目にも止まらなかったようです。 古の峠の歴史を語る唯一の証人とも言えるこの石碑は、現代の人々からは一顧だにされる事なくやがては野辺に倒れ臥し、意味を喪った石くれとなってしまうのでしょうか。 落ち葉が風に煽られてカサカサと音を立て、ふと顔を上げると南の樹間に逆光に浮かぶ武甲山の山影が微かに見えました。 ここからは南へ、芦ヶ久保の赤谷に下ります。 道中にはこの山域で最も愛らしい御姿の馬頭観音がいらっしゃるので、会うのが楽しみです。 ずんずん下り、やがて沢音が高くなって井戸入沢の右岸の斜面に付けられた水平径路を辿っていくと、その小さな馬頭観音があります。 江戸時代中期のもので、地形などから推測するに、何らかの理由でここで命を落とした愛馬を供養する為に個人が祀ったものと思われます。 野仏らしい極めて素朴な像容で、観音様の慈愛に満ちた安らかな表情とまるで微笑んでいるかのような馬頭の表情からは、馬方が馬に寄せた深い愛情と石工の真心がしみじみと感じられて、一介の旅行者たる自分も手を合わせずにはいられません。 ここから山麓の赤谷まではほんの一投足です。林を抜けると豁然と展望が開け、芦ヶ久保の谷と集落を眼下に見渡します。 山肌は鈍く色づき、秩父盆地に至る谷筋とその彼方の山肌が雲間から差す斜光を浴びて仄赤く染まっています。 国道沿いを歩いていると一軒の家の戸口が開き、お爺さんの後について飼い猫が出てきました。私を怪しい者と見てサッと身を伏せ、油断なくこちらを見ています。なかなかしっかり者の猫のようです。お爺さんを頼むぞ!と声をかけたくなりました。 さらに、散歩中の秋田犬にも出会いました。飼い主からいかに愛され、大切にされているかが一目でわかる綺麗な毛並みと優しい顔つきで、まだ あどけなさが残る若い犬です。人間を疑う事を知らない無垢で円らな瞳をこちらに向けて、ピンと立てた尻尾を何度か振ってくれました。 晩秋の寂寥に滲んでいた私の心はふんわりと温かくなって、すっかり暮れ落ちた山峡の道を芦ヶ久保駅へと歩きます。 ふと見上げた夜空には 星が一つ二つ、瞬きはじめました。 (峠路の詳しい歴史や感想については以下の日記に書いております。) mixi日記 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969406631&owner_id=12844177 1、秩父往還 吾野通り 旧 正丸峠へ 2、虚空蔵峠から大野峠へ 3、大野峠の今昔 4、赤谷の馬頭観音 5、芦ヶ久保の猫と犬 関連記録 奥武蔵の峠路と秩父往還 吾野通り https://yamap.co.jp/activity/961804
もしも不適切なコンテンツをお見かけした場合はお知らせください。