はじめての南アルプス

2018.08.30(木) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
12 時間 2
休憩時間
57
距離
13.2 km
のぼり / くだり
1875 / 1863 m

活動詳細

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登山はいつ以来だろうか。子供の頃は近場にある200mに満たない山に登ったりはしたものの、それなりの山となると20代の頃以来だろうか。もともと長野や山梨へ遊びに行くことは多かった。しかしそれは専ら星を観たりツーリングをしたりとお気楽なものばかりで、麓から登ったのは精々丹沢の縦走ぐらいだ。当時は何もわからないまま仲間に言われ、重登山靴(夏の低山なのに・・)や45リットルザック(日帰り専門だ)を購入し、ほとんどその格好で山道を疾走していた。バカ丸出しである。 南アルプスといえば渓流釣りで麓から眺めるだけで満足していた。イワナやアマゴと戯れる、その背景でしかなかったが、いつしかその先にある世界に興味を持った。近頃は雑誌を見ても50代60代の遭難記事のオンパレード。確かにジジイになると足元が覚束ないことも実感する。しかし、それでも多くの人が行くのならば、そこにはやはり何かがあるのだろう。かつて上高地で見た松濤明氏の《山の持つ美への渇仰――、山の美に憧れ、しかもそれの遠見に満足せず、もっと端的にその真っ只中へ飛び込んで一つに相解かれたいと願う心――、これこそ人間を駆って山へ向かわせる原動力だ》という文言が頭の中で膨らんでくる。 兎に角、罰ゲームのような重登山靴では倒れそうなので、まずはマムートのテトンGTXを購入し、釣りで実践投入。登山靴への冒涜だと言われそうだが、岩場でも獣道でも快適で、踵は指1本の余裕すらないが自分の足にはピッタリだった。ザックはそのまま30年前のミレーが使えそうだ。いよいよ今年に入り、流石にジャージというわけにもいかないだろうと、ウエアをモンベルへ見に行った。きれいな女性店員さんに色々と相談に乗ってもらい、話も弾んでレインウエアやらシャツやらを購入。決してスケベ心からではないが、気がつけば当初の予定よりもグレードが高い。まあ、ここは金で軽さを買おう。 いよいよ8月の終わりに出発。小武川林道はかつて通い慣れた道だ。誰もいない深夜の森の入り口ではウサギが道案内をし、更には仔鹿の出迎えがあったりもして動物好きにはたまらない。星空の下、青木鉱泉の駐車場に車を停めてしばし仮眠を取る。 5時半になっていざ出発。登山届を投函し、新たな世界への扉を開く。朝日に照らされた鳳凰三山を見上げながら気持ちよくスタートしたが、結構急峻な山道が続く。渓流の音を聴きながら進むのは快いが、なかなか高度が上がらない。でも、まあ登山はこんなものかね、と思いながら1時間ほど進むものの、まだ400mも登ってない。滝はどこだ。それにしてもドンドコ沢は木々に囲まれているため、現在地の把握が難しい。やっとのことで南精進ヶ滝に着く頃に、なんと左脚がつった。人生初めて。水分補給してしばし休憩。大丈夫だと言い聞かせまた進むと、今度は右脚が! ザックを下ろして暫く休憩。なんとなく回復の兆しがあったので先を目指す。高度2000mくらいになった時に下り坂が現れ、もう一歩たりとも下りたくないと心が折れかけた瞬間、木々の合間からぼんやりと遠くに何かが見えた。なんだろうとよく観れば、オベリスクではないか。一気に心が躍る。カッコイイ! あそこに是非行きたい。気持ちを新たに進む。 なんとか鳳凰小屋に到着。笑顔のご主人と若いおねえさんに「よく来るの?」と聞かれたので、「南アルプスははじめてです・・・というか登山が初めてみたいなもので」というと、一瞬目を丸くしたあとで、「ダメダメ、初めての人がドンドコ沢を登って来てはダメだよ」と言われた。えっ?! こんなものかと思っていたが、無知とは恐ろしい。しばし食事を摂らせていただき、更に地蔵岳を目指す。11時頃には山頂まで残りわずかの地点となり、最後の蟻地獄のような白砂に体力を消耗しつつ、やっと賽の河原に出る。遥か彼方に雲がたなびき、青々とした景色が身体も心も軽くする。それにしても根元から見上げるオベリスクはなんとも壮観だ。てっぺんはどんなだろうかと考えたが、血まみれの自分が想像できたので諦めた。誰も居ないのでスマホで自撮り。思えば自撮りも初体験。いやはや、ジジイが写っても画にならん。ぬいぐるみでも持参して代わりに写せばよかった。 やや上方に見える観音岳にもそそられたものの、自分の脚の状態を考えると流石に諦めざるを得なかった。後ろ髪を引かれつつも、そのままドンドコ沢を引き返してきたが、GPSを見るたびに下山速度の遅さに恐怖を感じた。そもそもろくに手も使わずにせっせと登ってきたのが敗因だった。途中で挨拶を交わしたオジサンやオバサン(ほとんどが自分より年配の方だった)が杖を持っていたが、あれはいったい必要なのかと疑念を持っていたくらいだ。鍛えられていない身体は、更に下りで悲鳴を上げた。このまま行くと途中で救助要請かなどという考えも出てきたくらいである。麓の堰堤に着く頃には、もはや産まれたての仔鹿なみの脚になっていた。何とか遭難せず青木鉱泉へとたどり着けたことに、ただただ感謝した次第である。

活動の装備

  • マムート(MAMMUT)
    テトンGTX Men

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