活動データ
タイム
16:28
距離
32.3km
のぼり
2369m
くだり
2119m
活動詳細
すべて見る未知の山域を開拓する楽しさを伝えるべく、サークルの現役を連れて大佐飛山地を横断してまいりました。 【大佐飛山地】 那須連山と高原山の間に連なる1,000m後半の山地。最高峰大佐飛山(1,907mとちぎ百名山)や、中央分水嶺であり山地の中心に位置する主峰男鹿岳(1,777m 日本三百名山・とちぎ百名山)、山腹の紅葉が美しい日留賀岳など、約15km四方に亘る山地です。那須や高原山ほど人目に付くピークでもなく、登山道も一部ピークしか整備されていないマイナー山域で、男鹿岳も大佐飛山も登山道がなく藪に阻まれるため、とちぎ百名山では最も登頂難易度の高いピークの一角(通称、とちぎ百名山四天王)とされています。厳冬期が緩み天気が安定し、かつ藪が顔を出すまでの残雪期の数週間に登る人が一番多いですが、それでも正直派手な山ではないため静かな山歩きを楽しみたい人がポツポツ訪れるくらいです。ただ残雪シーズンは稜線の半雪庇状の道が”空中回廊”となって非常に開放的ですし、稜線からは正面の那須を始め、雪の大障壁と化した飯豊など南東北の山々や遠く富士山まで望める大展望が大変素晴らしい山域です。でもやっぱり、一番の魅力は、とかく人が少ないので誰に気兼ねするでもなく自由に登れる、そんなマイナーエリアならではの楽しさが詰まったところでしょうか。 大佐飛とはあまり聞かない地名ですが、大佐飛山の山頂は那珂川水系となる蛇尾(さび)川の源頭となっており、”佐飛”はこの”蛇尾”の当て字かと思われます。一説によると、蛇尾川はアイヌ語の”サッ・ピ・ナイ”(乾く・石の・川)が由来とされ、その通り普段は涸れ川として那須野を流れています。涸れ川ということは伏流水な訳ですが、それは恐らく那須野一帯が火山からの噴出物で形成されているためであり、多孔質の火成岩が地表の水を飲みこんでしまうからでしょう。那須岳や高原山のthe火山といったフォルムとは違い、大佐飛山地は解析が進みややのっぺりした山容となっています。分類上大佐飛山は非火山ですが、山地一体の地質は火山の噴出物であり、那須や高原山よりももっと先輩の火山と言うことができます。これにはカラクリがあって、地理上の火山の定義が第4紀以降に噴火したものとされているためで、つまりそれ以前に噴火したものは火山であっても火山と分類されないという不思議な設定があるからだと思います。それは人文地理上、火山の活動がもたらす影響が大きいことを考慮したものでしょうし、マグマでできた山を火山にしてしまえば、地下深くのマグマ溜まりが隆起した屋久島なんかも火山になってしまいそうなので、ある種正しい線引きなのかもしれません。ただ、島の大半が花崗岩(深成岩)の屋久島なんかと違うのは、大佐飛山地の地質は流紋岩(火山岩)であり、地下深くのマグマが隆起したのではなく、かつてれっきとして噴火していたということです。それがあまりにも昔なので分類上非火山ということですが、那須火山同様、山腹に水の流れない不毛の台地を形成し、それが逆に酪農の発展(作物は育てられないが、原野で放牧はできる)に繋がって、さらに牧歌的なイメージから観光化が進んだ結果今日の那須高原があると思います。「那須高原」といえば那須岳の天下といった感がありますが、大佐飛山地も陰ながら(それでいて割としっかり)今日の那須の立役者を務めているという点を、慎ましい大佐飛山地に代わって紹介しておきたいなと思います。 大佐飛山と双璧を成す?男鹿(おじか)岳の由来は分かりませんが、女鹿岳もありますし、鹿又岳もあったりと、鹿関係であることは間違いなさそうです(そりゃそう)。降り立った林道で鹿に会いましたしね。こちらもあまり表舞台に出てはきませんが、男鹿岳から延びる稜線の末端の山王峠は会津の玄関であり、戊辰戦争の際は板垣退助が布陣するなど、大きな街道だけあって歴史は深いです。一方で山王峠最寄り駅の男鹿高原駅は、1日5本しか電車の止まらない秘境駅。確かに周りには変電所以外なんの建物もなく、駅舎には自動販売機はおろかトイレもない、秘境駅と呼ばれるのにも納得の何もない駅でした。それがかえって人を惹きつけるのか、駅ノートには来訪者のコメントが多数(土合駅と似てますね)。ただ、駅名の由来である男鹿岳の玄関口として駅が機能しているかと言うと非常に微妙(土合ならば、真っ先に谷川登山が想起されるのと対照的)と思われるので、今回そこを結びつけることができて個人的に満足しています。 そんな静かなエリア大佐飛山地ですが、俄に活気付いた時期もありました。それが幻の県道こと栃木県道266号線、通称塩那スカイラインです。時は高度経済成長期の1962年、マイカーブームによって各地で道路建設だった折、観光道路として塩原温泉から板室温泉までを繋ぐ観光道路計画がありました。このドライブルートは視界を遮るものがなく見晴らしの良い稜線上を車で通行できる、日本有数の規模の山岳道路構想でしたが、急峻な地形による難工事に加え、オイルショックも重なり建設を中止。自衛隊を投じてまで工場道路を切り拓きましたが、道中一切人家がないことに加え九十九折を繰り返す山岳区間は一般的な交通網に期待されるショートカット効果も見込まれなかったため計画は凍結。2004年までは年間4000万円を費やし工事用道路を維持していたようですがそれも断念し、ついぞ一度も開通しないまま廃道とすることが決まったとんでもない道路です。廃道化が決定してからは、山岳区間の13.7kmは完全に封鎖され、一部の廃道マニアが訪れるほかはただ自然に還るままになっています。そうして、大佐飛山は再び静寂に包まれたのでした。 【ルート概要】 ◇アプローチ◇ 那須塩原駅または黒磯駅から板室温泉行きのバスで穴沢下車。土日祝は那須塩原8:30発なので新幹線使えば始発でもたいていの方は間に合うかと思います。平日は黒磯発6:20のバスもありますが、まず間に合わせるのは都心からは困難でしょう… 他、鴫内山ルートは湯宮行きのデマンド交通もありますが、予約が必要なので少々面倒かと思います。 ◇穴沢〜黒滝山◇ 光徳寺までは畜産地帯の牧歌的な車道を行きます。百村山までほぼ雪なし。樹林帯を行きますが、林道が横切る時、法面をロープを掴みつつ登る箇所があります(2箇所)。冬のフル装備だとちょっと面倒。 百村山を過ぎたあたりからポツポツ雪も出始めて、三石山からはほぼ雪道。今年は一気に雪解けしてますが、3.18の南岸低気圧でおおむね1,300m以上は雪が積もり直してます(稜線で+10-15cmほど?)。 黒滝山までは夏でも登山道があるのでそこそこ整備はされてますが、サル山登りに雪と泥がミックスした斜面、それから山藤山と河下山登りがそこそこ急でちょい疲れました。 ただ、恐らく最も大佐飛登山に適した日取りでこの天気だったので入山者は10名ほどいらっしゃり、バスで後発の我々はトレースをなぞるだけでしたので苦労することはありませんでした。 ◇黒滝山〜大佐飛山◇ 基本的に緩やか尾根なので疲れはしませんが、時折尾根筋の灌木帯が煩雑&踏み抜きもたまにという点が面倒。ただ、灌木帯と交互に現れる雪庇の回廊は、このエリアの醍醐味だけあって眺望も素晴らしくとても良かったです。また、ほとんどの方は日帰りだと思いますが、男鹿まで繋げたいという方にはありがたい幕営適地が沢山あるのも嬉しいところ。ここ数日は大佐飛狙いの方が入ると思いましたので、我々は邪魔にならぬよう大佐飛手前の主稜線からやや外れた小ピークにテントを張りました。 ◇大佐飛山〜瓢箪峠◇ 幕営地〜大佐飛山は灌木帯メインで特筆点なし。 大佐飛山〜瓢箪峠が本当に記録がなく未知の世界でした。ただ地形的にはそこまで難しくなく、積雪量的にも十分で藪の心配もなさそうだったのでトライ。 とはいえ、簡単なわけではありません。まず大佐飛の広いかつ樹木で見通しの効かない山頂から正しく降りるルーファイ力。特に大佐飛からは尾根を追うと1731点に続く南側の支稜に降りてしまいます。 瓢箪峠と大佐飛山の間にある、1872点に連なる小ピーク(等高線が十字架に見えるので“Jesusピーク”と呼んでました)までは今回のルートを通しても1番と言っていいくらい気持ちの良い稜線でしたが、Jesusピークの下りがなかなかの曲者。1622点に向けて枝尾根から北に向かって下降を開始するのですが、地形がハッキリせず1622点も樹木に阻まれ非常に見えづらいのでルートが見極めにくかったです。加えて、傾斜もなかなか急で、北斜面のため表面だけ凍結したモナカ雪となってなかなか下りなのに飛ばせませんでした。 1622点周辺は多少灌木が煩いもののそんなに大変ではありません。少なくとも藪は埋まっているのでそこは良かったです。ただ、瓢箪峠に向けた登りが、等高線以上に傾斜がキツく感じ、雪も緩んでいたので少し登りづらかったです。 ◇瓢箪峠〜男鹿岳◇ 正確にいうと瓢箪峠のちょっと北のところで主稜線とぶつかります。尾根が吸収される小ピークは、せっかくなので幻の県道塩那スカイラインを借りて巻き、次の小ピークから尾根筋で女鹿へ。尾根筋は広く植生も疎なので歩きやすかったです。しかも男鹿岳から鹿又を目指すソロの方とすれ違ったので、ラッセル覚悟も杞憂で終わり、素晴らしい眺望を堪能しながら女鹿手前のコルへ。 男鹿の下りを考慮した結果、女鹿手前のコルから男鹿岳はピストンとしました。コルから女鹿まではややキツイ登りで、東側がクラックだったりブッシュが顔を覗かせていたりするものの、雪はまだしっかり繋がっているので恐怖感はそんなにないと思います。女鹿岳は360度の大展望で、今ルートで1番景色が良かったので男鹿岳ピストンの方にもおすすめのピークです。 女鹿〜男鹿も、東側は雪庇のようになっているものの、雪の幅はしっかりしているので恐怖感はないと思います。ただ、何箇所か笹が顔を覗かせかけていて、踏み抜きポイントもありましたので、今年の男鹿シーズンはそう長くないのだと思います。 ◇男鹿岳〜男鹿高原駅◇ 大佐飛〜瓢箪峠と並ぶ未知の区間。1ヶ月前に2本登頂された記録はあったものの、季節を先取りし過ぎた昇温で雪がどこまで残っているかは未知数でした。下降ルートとしては ①男鹿岳から県境尾根を西進し、途中で南に折れ男鹿林道に合流 長所:登降記録ありでロスが最も少ない 短所:下部が急な上、南面で雪が溶けきっている可能性 ②女鹿岳より谷を林道へ下降 長所:下降記録あり 短所:春の急な谷は雪崩が怖い ③女鹿岳南の小ピークより枝尾根経由で林道 長所:北面なので雪が繋がっていそう、ロスも大きくない。雪崩リスクは少なく、雪が切れれば下降記録のある北側の谷にシフトも可能 短所:記録がない ④瓢箪峠北の小ピークから1300点付近を経て林道 長所:傾斜が緩く地形的に最も安全。現地で唯一目視で残雪を確認できたため最も確実 短所:ロスが大きい 前日の様子から1300m以上は雪が多少回復していることが分かったので、男鹿林道出合の標高1250mは及第点。多少風上なので残雪量も初日のピークよりは豊富と踏みました。それでも最悪最後の標高差100mくらいはヤブも辞さない心算だったので、女鹿の稜線から下降ラインを確認して残雪状況をチェック。結局目視確認できたのはルート④だけでしたが、県境稜線を遠望すると1361三角点で南面が露出しまくりだったので、南面を下るルート①を断念。秘境駅と評される男鹿高原の1日わずか5本しか電車を乗り逃すのも避けたかったので、ルート③で降りることにしました。この辺の判断は賭けと言ってもいいですが、前日からの積雪具合的に勝算は70%(ルート④を100と想定した場合)+藪漕ぎならやむを得まいという判断でした。 結果としては、ほぼ林道まで雪が繋がっており、地形としてもそこまでの急坂はなかったので、下降ルートとしてはアリです。登る分には傾斜がキツイのでシンドそうですが…。 林道は林道で、崩壊箇所が雪に埋もれていることもあり若干ルーファイに苦戦。ただ雪があっても基本的に道のラインは分かるのでそこまで難しくはありません。1,000mくらいから雪も無くなったと思います。あとは惰性でダラダラ歩くのみ、とはいえ12km以上あるのでなかなかシンドく、途中からアプローチシューズで歩きました。 【おわりに】 3月24日に主人公サトシが引退することで一区切りするポケットモンスターに、こんな名言があります。 『強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てるように頑張るべき』 私は屈強な登山者ではないですが…でも大佐飛山地ってそんな台詞を思い出すような山域です。決して派手な山ではないですが、本当に静かで、自分の描いたルートを自分で切り拓き、登頂の喜び、山頂の景色を独占できる。そんな原始的な登山を楽しめる貴重な山だと思います。 東北時代にそんな山の楽しさを知って、こういう山も1つのスタイルと後輩に伝えるのも悪くないなと、久しぶりに現役の大学生と登りました。私も学生時代は八ヶ岳みたいな華やかな山を登っていたので、今回の山行が響いたかは分かりませんが…笑 華やかな山を粗方登ったような方が訪れるエリアだと思うので、もしかしたら最年少登頂記録かもなんて学生相手には冗談交じりに話してましたが。それはともかく、個人的にも数年前から気になっていたエリアでしたので、今回長大な横断記録を残すことができて、自分の中では非常に満足度の高い山行となりました。 当初は男鹿岳から南進して日留賀岳、そして塩原温泉へ下山するルートを構想していたのですが、yamarecoでロープを出した記録を見つけ、誰かを連れていけるほど簡単でもなさそうだなと思い今回のルートに変更したので、そこはまた今後の宿題にしたいなと思います。
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