雲海ショーとブロッケン　古祖母山

　あの鎖場とナイフリッジを堪能した石鎚山に登って早２週間。「石鎚ロス」に罹ってしまった。奥穂高ロスに罹った時は、とにかくくじゅうに登ってその治療に専念したが、今回はどうやってロスを埋めようか。 　オッサンは祖母の大障子岩（おおしょうじいわ）を提案、祖母山頂上からいつも眺めていたので、いつかはと思っていた。すると、相棒が「古祖母山」を提案してきた。う～ん、確かに祖母山側からいつもなだらかな山容を眺めている。 「祖母山から、間に障子岳を挟んで、南側に位置する。頂上は南北2つの峰からなり、最高点は三等三角点のある南峰。伝承では、神武天皇の祖母である豊玉姫が、この山に降臨した後に、祖母山へと移ったとされ、それが山名の由来となっている。緒方町尾平登山口等からの登山道があるほか、祖母傾縦走の経路でもある」（Wikipedia） 　傾山への縦走路は一度歩いて見たかったし、コースを調べると比較的軽いようだ。来週は阿蘇のバカ尾根を登るので、あまりきつくない方がいい。古祖母に決定したが、それでロスが埋まるかは登ってみないと分からない。 　朝５時に出立、登山口は宮崎県高千穂町上岩戸にある「尾平トンネル駐車場」。ここは障子岳、古祖母、傾、本谷山への起点にようだ。前夜は息子と焼肉食べ放題に行って１キロ食べた。もう、あと１年は焼肉食わなくてもいい。が、どれだけ体重が増えているか、怖くて体重計には乗れなかった。 　天気は晴れのようだが、祖母方面には厚い雲。これが後にオッサンたちを感動させてくれるとは思いもしなかった。高千穂中心部から上岩戸に向かうが、次第に道は狭くなってきた。時折集落に出くわすが、きれいに草が刈り取られている。恐らく、集落全体で草刈り作業をこまめにやっているのだろう。 　８時過ぎに到着。外に出ると、暖かい。せっかく、耳当て買ったのに使わなくてもよさそうだ。すでに車が３台停まっているが、駐車場は広い。 　縦走路までの道は巻き道のようで非常に歩きやすい。鳥の鳴き声も聞こえず静かだ。しばらくして縦走路に到着。右に行けば傾だ。この縦走路は九州の岳人の憧れの的のようで、祖母～傾縦走をやる人も多い。恐らく山中に２泊することになるだろう。 　古祖母は左。しばらく緩やかな気持ちいい道を歩く。右に目をやると、雲海だ。これは期待できそうだ。頂上までもってくれれば滅多に見られない光景が待っていることだろう。後ろを振り返ると、傾の頂上は残念ながら雲に覆われて姿を見せていない。 　縦走路の常だがアップダウンで体力を削り取られるだろうと思ったが、それほどのアップダウンはない。いいコースだ。時折、雲海を眺めたり写真を撮ったりしてゆっくりペースで歩いた。すると、雲海から浮かび上がる大障子岩の威容が見えた。素晴らしい。これはますます期待できる。 　しばらく歩くと、祖母山、天狗岩が見えてきた。雲は南と東から流れ込んでいるようで、向こうは晴れているようだ。梯子をこなして登っていくと、北峰に到着。ここから雲海の絶景…遠くにくじゅう連山がぽっかり浮いている。雲海を見たのは７，８年ほど前の由布岳以来か。あの時よりも素晴らしい景色に息をのむ。 　とりあえず、ピークの南峰に向った。ピークは残念ながらガスに覆われている南側しか展望がないので、飯は北峰で食べることにした。 　山飯を用意していると、相棒が感嘆の声を上げた。ブロッケン現象だ。 「太陽などの光が背後から差し込み、影の側にある雲粒や霧粒によって光が散乱され、見る人の影の周りに、虹と似た光の輪となって現れる大気光学現象」（Wikipedia）。写真では何度か見た事があったが、まさかここで見られるとは…雲が流れているのと太陽光が背中から当たらないとなかなか難しい。ようやく撮れた。カップ麺は伸びてしまったが、仕方がない。 　下りもブロッケンを見ることができた。オッサンは新しいストックに慣れようとするのだが、まだしっくり来ないし、捻挫を用心しながら下りたので、時間がかかった。１時過ぎに下山完了。 思わぬ絶景に出遭えて、石鎚ロスを埋めても余りある山行になった。山の神に感謝だ。 ところで、ブロッケン現象だが、西洋ではどちらかというと恐ろしいものという表現のようだが、日本では昔から「御来迎（ごらいごう）」「御光」と畏敬の念が込められている。自然を征服しようと考える西洋と、自然を畏敬の対象にする日本人の自然観の違いなのだろうか。 　さて、今年もあと１カ月少し。山に入る機会は、３回ほどだろうか。今年はケガに苦しめられた。最後まで気を抜かずに楽しみたい。 令和４年の山行はこれで４０回目。ピーク数は６３（重複なし）