活動データ
タイム
05:49
距離
8.8km
上り
1082m
下り
1091m
チェックポイント
活動詳細
すべて見る🕌gotoトルコ 第1週 カッパドキア4~5日目 エルジェス山 🕌序章「半壊」 2022年9月30日午前4時半。厚着した体が寝袋ごと少し持ち上げられるような違和感を覚えた。 ペグが外れた? 何か折れた? 確かめるのが億劫だったので、そのまま耐え忍んだが、尿意を我慢できなくなった。 外に出て顔面を暴風に直撃されると同時に、重しを失ったテントは裏返った。 エルジェス山(標高3916m)のテキール高原(3000m)のキャンプ地。天気予報と180度異なる風の強さと音に心底驚き、不運を恨んだ。 同行ガイドから「戻ろう」と言われるかもしれない。€330も支払い済みだぞ。一部返金を求めたら、応じるのかしらん。 いや、トルコまで来ておいて、メインイベントのエルジェス山で、登頂どころか挑戦もできない。そんなことがあっていいのか。 半壊した我が家に立てこもりながら、泣きわめきたくなった。 🕌第1章「ムハンマド」 カッパドキアの2大名峰エルジェス山とハッサン山(3268m)。8月、石垣島でプランを練り始めた頃は、エルジェス山しか念頭になかった。だって高いほうがいい。 「ソロ&日帰りで行けるところまで」と考えたが、情報収集は難航した。登山というレジャーはマイナーらしく、至れり尽くせりだったスイスとは根本的に異なる。 YAMAPの活動日記は、もちろんない。サイトを漁って比較的マシなルートマップを見つけたものの、距離、累積標高差、CT、難易度、いずれもよく分からない。 そもそも、どうやって登山口へ行くのか。 公共交通機関は、ググっただけでは不明(たぶん無い)。いったんはレンタカーを予約したが、まともな道路や駐車場はあるのか。止めた車は無事でいられるのか。 タクシーで行ったら、下山に合わせて約束通り迎えに来てもらえるのか。いずれもよく分からない。 同時並行でガイドツアーを物色すると、唯一"Middle Earth Travel"という会社のサイトで1泊2日のプランを見つけた。 ただし、予約は2人から。€390(5万5000円)という欧米観光客プライスだった。 4人以上なら半額になることもあり、まずは8月13日、この会社に「他にパーティーがいれば、加えてほしい」とメールを送った。 1時間でムハンマドというスタッフから「予約が入ったら伝える」と返信があった。 レスポンスの速さ、英語力、会社の口コミ評価から「信頼できそうだ」と踏んだが、その後、音沙汰はなかった。 🕌第2章「交渉」 9月9日、ムハンマドに「進展は?」とメールを送ると、またもすぐレスがあった。 「進展はないが、お一人様でもOK」 そら来た。ここからが勝負だ。 「行程のうち遺跡見物は要らない。いくら?」と尋ねると、€330(4万6000円)という。思ったよりは安い。返答に半日もかかったのは、ボスと相談したからか? この時点でソロの計画は内心消えたが、粘った。「もう少しマケてくれたら即決する。初日のランチはなくてもいいけど?」 2時間で返ってきた答えは「寝袋レンタル代をサービスします」だった。 日本代表として、引き下がれない。 「考えさせて」と冷たい感じで返事を書き、5日間放置した。割引してでも実入りが欲しいなら、向こうが折れるはずだ。 で、折れなかった。「じゃあ今回は諦めます」とカマをかけるという最終手段に打って出る勇気はなく、€330で妥結した。 🕌第3章「暗雲」 登山まで1週間を切った9月23日、成田駅前のホテルに前泊中、ムハンマドから短いメールが届いた。「きのうエルジェス山で初冠雪。装備は十分ですか?」 山頂の天気予報を見た。強風を伴うと、体感温度はマイナス10~20℃まで下がるという。そんなに寒いの......? ウェアは一応冬装備。アイゼンやピッケルは現地で借りられるが、大丈夫だろうか。当初ソロを志向した自分はアホだった。 24日深夜、成田ーイスタンブールの乗り継ぎ地アブダビ(UAE)に降り立つと、ダメ押し気味のメールが届いていた。 「最近の降雪からすると、考え直すべきかもしれない」。この時期、標高が低いハッサン山のほうが適しているという。 26日朝、カッパドキアの町ギョレメにたどり着いて、真っ先にMiddle Earth Travelに出向き、ムハンマドに挨拶した。 シルクハットをかぶったお洒落な男だった。ややメタボなので、ガイド兼務ではなさそうだ。表情が冴えないのは、なぜ? 「登山者が落石で死亡した。しかも初冠雪の後じゃなく、その2日前」 前日のメールにはなかったことを言い出した。「僕には専門的なことは分からない。ガイドから話を聞いてみて」。この日の夕方、顔合わせすることになった。 寒さを心配していた矢先に「死亡事故」の追い打ちは痛かった。 どうしよう。ハッサン山にしようか。 🕌第4章「決断」 ギョレメ国立公園での初ハイキングを終えた後、Middle Earth Travelに戻ると、ムハンマドもガイドも不在だった。 一人で考え込んでいるうちに、当初の弱気が強気に傾いていった。我ながら意外。 〇日本でも遭難は無数にある。それ自体は登山断念の理由にならない 〇ヤバそうだったら、撤退すればいい 〇幸い、天気予報は悪くない 〇独りじゃない 「決めた。エルジェス山に行きたい。登頂できなくてもいい」と、その場にいたボスのアティルに伝えた。 特に驚かれなかった。「あなたが行きたいと言うなら」。そんな感じだった。 まもなくムハンマド、そしてガイドのイスマイルがやって来た。 イスマイルは23歳。ラモス瑠偉のような髭モジャ&髪型に、スリムな登山体形。エルジェス山には4回登頂しているという。 「ヤバかったら撤退」と意思を伝えると、飄々とした様子で「OK」。「crampons(アイゼンの英語表現)は要らないでしょう。一応持っていくけど」と言った。 🕌第5章「DAY1:髭モジャ3人衆」 出発日の9月29日午前11時、Middle Earth Travelに集合した。 山頂の天気予報は両日とも概ね晴れ。最大風速15m/s→8m/s。最低体感気温▼10℃→▼8℃。この時点では、2日目のほうが良さそうだった。 ここからイスマイルとの2人旅が始まると思いきや、ボスとムハンマドも荷造りしている。ボスはキャンプ地まで同行、ムハンマドはエルジェス初登頂を目指すという。 同社がエルジェスツアーを募るのは6~9月の4カ月間。なんと「今年のお客は、あなたが最初で最後」と聞かされた。やはり、トルコでは登山は超マイナーだった。 シーズン終了間際に妙な日本人が現れたのを奇貨として、抱き合わせの「社員旅行」を企画したらしい。「ガイド3人ですよ!」とムハンマドは事も無げに笑った。 テキトーで、好きなようにやる彼らの感じは、とばっちりが許容範囲に収まるうちは悪くない。規律と秩序と集団主義が前面に出る日本から来ると、快感すら覚える。 かくして、4人分の荷物で過積載の車に乗り、髭モジャ3人衆+レア日本人のエルジェス登山が始まった。ガイドとの二人きりより、社員旅行ムードのほうがいい。 ふもとのスキーリゾート(標高2250m)に着くと、テキール高原(Tekir、標高3000m)のキャンプ地までは別途オフロード車と運転手が手配されていた。冒険感アップ。 テントを設営した後、翌日早朝からの登頂に備えた降雪などの下見を兼ねて、イスマイル、ムハンマドと一緒に直登ルートの半分あたりまで登ることになった。 イスマイルが先を行き、たまに振り返る。ジーンズ姿で、どの程度のスキルがあるのか怪しいが、健脚で明るいのはガイド向き。「日本車が好きだ」と何度か言った。 一方、ムハンマドは登山体形とは言い難く、ヘビースモーカー。常に10馬身ほど遅れ、登頂できるかどうか微妙だった。 ともあれ、下見の結果、直登ルートの左側を迂回することになった。別オプションとして、安全な尾根ルートもある。 初日に痛感したのは、こんな登山をソロでやろうとしていた自らの不明だった。 普通車ではたどり着けず、何の設備もないキャンプ地。何の目印も避難小屋もないトレイル(のようなもの)。無人で落石だらけの山中。登山というより、秘境探検に近い。 午後8時ごろ就寝した。 標高が高いのに加え、風が強かったので、しばしば目が覚めた。 それでも、翌朝は5時半から朝食を取り、6時に登頂を始めるという日程に、何の疑念もなかった。 🕌第6章「DAY2:尾根へ」 30日未明、半壊したテントで暴風が収まるのを祈っていると、ボスのアティルが近くから大声で呼びかけてくるのが聞こえた。 「Keith!(仮名) We......stop......!」 テントがバタバタ鳴る音で聞き取れず、適当に「Yes!」と答えたが、ボスは登山断念の方針を伝えたかったようだ。実際、朝食の時間が近づいても、誰も起きてこない。 ツアーじゃなかったら、自己責任で決行もできるのに......。微かにあった希望は消え失せ、絶望というか、苛立ちというか、ネガティブな感情が渦巻いた。 予定より2時間遅く朝食が出された。 「ギブアップの感じ?」。ムハンマドに恐る恐る聞くと、暴風で落石のリスクが高い、時間もないとのこと。そりゃそうだけど。 「帰りたくない。せめて、尾根ルートに上がってみたい」とボスに頼んだ。 すると、あっさりOK。朝食後に強制帰還させられると覚悟していたので、テンションがウィ~ンと急回復する音が聞こえた。もう、登れるなら何でもいい。 同じく2時間遅れで、暴風尾根ルート登山が始まった。落石の危険はないが、かなり遠回りで、端から登頂はあり得ない。 しかも、帰りのオフロード車の時間はfixされている。「山頂に肉薄」とは言い難い地点で、イスマイルは浮かない顔で「時間切れ」と言った。ツアーの泣き所だ。 「でも、絶景を見られたからよかった」と書くつもりは、さらさらない。 いや、素晴らしい絶景だったが、基本的に不運だった。残念。悔しい。登山では「登頂」という要素は決定的に重要だ。 救いがあるとすれば、地球放浪史上まれに見る経験値が溜まったことである。 「えるじぇす山って富士山より高いんですか?」から始まり、サイト情報をかき集め、英国からは古本を取り寄せ、ムハンマドと交渉し、リスクに怯み、しかし振り切り、挑戦の入口には立てた。 何より「登山というレジャー文化がない国で登る時は、安易にソロで行くべきではない」という教訓を得たのは大きい。 あ、テント半壊の経験値も。 🕌終章「地中海へ」 エルジェス山に別れを告げ、ふもとの百万都市カイセリのホテルまで送ってもらった。髭モジャ3人衆とは、ここでお別れだ。 この騒々しい町に2泊するが、予定は未定。心身の休息を優先して、10月2日朝に心機一転、地中海沿岸部に飛ぶ。 青い海......シーフード...... 📌おことわり 一眼レフの写真は時間がズレています。6時間を足すと、正確になります。
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