ふたたび弓張山地と湖西連峰について

2022.11.23(水) 日帰り

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豊橋自然歩道の一部廃止が発表されその後撤回とゴタゴタがあって、豊橋自然歩道、弓張山地、湖西連峰の名が脚光を浴びるようになりました。いい意味での脚光ではありませんが、弓張山地、湖西連峰の名が広く知れわたるきっかけになったとは思います。 昨年にも弓張山地と湖西連峰のちがいについてまとめましたが、以前のわたしの記事を見ておられない方も増えて、ふたたび弓張山地、湖西連峰の混乱が見られるようになりました。そのためもう一度わたしの見方をお伝えしておく必要を感じました。資料を一部あらため内容も書き直して日記にあげます。 長い文章が苦手だという方は、  😄豊橋側では以前から弓張山地の名で呼んできた。   😄正式名称は「弓張山地」で、湖西連峰は湖西側からの通称。  😄湖西から見える山並みを湖西の人たちが湖西連峰と呼んできた。  😄嵩山の蛇穴、石巻山、赤岩尾根、葦毛湿原、東山などは豊橋側にあり、豊橋自然歩道支線を湖西連峰に含めるのはふさわしくない。 の4点を頭に入れていただければと思います。 ここで書いた内容については、わたしや豊橋自然歩道推進協議会(近々解散してしまいますが)の考え方です。意見のある方はコメント等でお知らせください。 なお、参考資料や補足などを末尾に列記しました。 😉豊橋側からは弓張山地と呼んできた この豊橋と湖西の間に横たわる山並みを、豊橋側からは「弓張山地」または「弓張山脈」、「弓張山系」と呼んできました。豊橋側には弓張山地または弓張山系を歌詞に歌い込んでいる校歌が何校かあります。(豊橋市立東部中学校、豊橋市立東陽中学校など)また、「弓張」がつく題の本などもあります。それほど弓張山地は豊橋ではポピュラーな名です。わたしは若いころからこの名しか知らず、「湖西連峰」の名は知りませんでした。 それをはっきり示すのが、豊橋市の市制100周年を記念して編集された校区の紹介冊子『校区のあゆみ』(校区史)です。あとの資料にもまとめたとおり、弓張山地のふもとにある校区はすべて、「弓張山系」「弓張山地」などを使って校区の自然環境を紹介しています。 「弓張山地」は「八名弓張山地」とも呼ばれ、地学的な用語にもなっています。赤石山脈の支脈で、鳶ノ巣山から二川まで50kmほど連なる山地です。(ウィキペディア)こちらが正式な名称となります。以前、豊橋市自然史博物館の学芸員の方が「ほんとうは弓張山地と呼ぶべきなのに最近では湖西連峰と言われてしまう」と嘆いていました。ただ、弓張山地はあまりにも長いため、部分的な山並みを示すには不都合な面もあります。 😉「湖西連峰」の名前と範囲 浜名湖の西にある山並みだから「湖西連峰」と言うのですが、もともと「湖西連峰」の名は西遠州地方だけで使われ定義もはっきりしていなかったようです。おそらく湖西地方から見える山並みを地元では漠然とそう呼んでいたのでしょう。 湖西市と湖西市観光協会が出している『湖西連峰ハイキングマップ』では、「湖西連峰」の範囲を「宇利峠から南西につづく山並み」で「浜名湖の北岸から西岸にかけての山並み」としています。(この定義の「浜名湖北岸」には異議があります。湖の西ではないからです。)北限は示されていますが南限は明示されていません。 また、静岡県の公式サイトの「自然観察ガイドブック」の「30湖西連峰」の紹介では、地図には富士見台(これは富士見岩のあるところを指しているようです。)から神石山-仏岩-嵩山のラインしか示されず、石巻山や赤岩尾根、葦毛湿原も描かれていません。普門寺に下りる道が描いてあるのがなぜかわかりませんが。 一方、『静岡の百山』(1991年刊)には神石山について「赤石山脈は蜿蜒(えんえん)と続いてこの神石山を最後に海へと消える」となっていて、「(神石山は)湖西連峰の最南端のピーク」とも書かれています。これによると神石山より南と西は湖西連峰ではないことになります。つまり嵩山(すやま)も入りません。(この説明が正しいとは言えない気がしますが、そう見ている人もいたということで、「湖西連峰」の定義のあいまいさを物語っています。) 現在の湖西市のホームページでは、名所案内として大知波峠廃寺跡を取り上げ、「湖西連峰にあり」と書かれていますが、そのくらいしか見つかりません。湖西連峰の範囲を示したものはほとんどないようです。そして、さまざまな文献を見ても「湖西連峰」という語はそれほど多くは使われていません。 👉参考資料と補足 😉豊橋自然歩道は豊橋自然歩道推進協議会が設置し維持管理してきた この弓張山地と湖西連峰の県境部分は豊橋自然歩道となっています。この自然歩道は豊橋のボランティア団体・豊橋自然歩道推進協議会が設置したものです。1969年から順次整備が進み、神石山周辺は1971年に完成、1972年には豊橋自然歩道の北部が全通しています。今では本線と支線をあわせ全長40数kmにおよぶ自然歩道になっています。 維持管理は豊橋自然歩道推進協議会がチェーンソーや草刈り機を持って山に入り倒木の処理や草刈りなどの整備をおこなってきました。ときにはマムシにかまれたり、けがをしたり、熱中症にかかりながら懸命の努力です。そして、豊橋自然歩道推進協議会ではこの山並を一貫して「弓張山地」と言っています。 豊橋自然歩道ができたあとでこれに相乗りする形で湖西市が湖西市に属する部分に標柱や案内板を立て、「西連峰ハイキングコース」として指定してきたようです。本線の歩道の維持には湖西市はほとんど関わっていないはずです。(ここは推測が入っています。) 😉湖西連峰ハイキングマップの示す範囲 『湖西連峰ハイキングマップ』には、嵩山(すやま)から富士見岩までの稜線の東側(湖西側)のポイントを緑色の字で示して、概要を紹介しています。また、神石山の頂上に掲示してある「湖西連峰ハイキングコース」の地図にも嵩山から富士見岩までが表示されていて、湖西側のポイントだけ載せてあります。湖西市側のハイキングマップとして限定はされているようです。 いずれの地図にも北部は省略されていて、坊ヶ峰は入っていません。これは坊ヶ峰が湖西市に属さないからでしょう。しかし、坊ヶ峰の属する浜松市のホームページを見ても湖西連峰の名は見つかりませんし、浜松市に入る前の行政単位である三ヶ日町の三ヶ日町誌にも出てこないので、やはり湖西市部分だけの名称になっています。 もともと湖西側から見える山並みを漠然と「湖西連峰」と言っていたけれども、範囲ははっきりしていなかったようです。しかし、『湖西連峰ハイキングマップ』に豊橋自然歩道のコースが載ることで、地図に載っている山々(座談山や東山など)まで全部を「湖西連峰」ととらえる下地ができてしまったのではないかと思います。(悪意はないはずですが。) 😉「弓張山地」と「湖西連峰」は同じではない 「湖西連峰」の名が広まってきたのは、ヤマップなどで「湖西連峰」として紹介されるようになってからだと思っています。ヤマップでも湖西連峰の範囲は明示していませんが、利用者はどんどんその後ろ(西)側にある豊橋の山まで含めるようになってきたのでしょう。 嵩山の蛇穴、石巻山、葦毛湿原、赤岩尾根、東山などは静岡側にはまったく入っておらず豊橋市に位置します。石巻山や葦毛湿原が「湖西連峰」の中に入れられて紹介されていると本当にがっかりします。 「湖西連峰」という呼び名はロマンのあるすてきな名だと思いますが、範囲を限定して使うべきだと考えます。特に明らかに豊橋側に延びた部分は、やはり「弓張山地」と呼ぶのが妥当だと考えます。そして、せめて豊橋側の方には旧来の「弓張山地」「弓張山系」を使ってほしいものだと思います。 「弓張山地」はこのあたりの山全体を言うので線で示すことはできないのですが、あえて主脈を示すことで「弓張山地」と「湖西連峰」のちがいを地図に表してみました。参考にしてください。 =============================== 👉参考資料と補足 ●豊橋市『校区のあゆみ』(2006年刊)豊橋市総代会  『校区のあゆみ』は豊橋市市制100周年を記念して編纂された。豊橋市の全小学校区の歴史や現在が校区ごとに1冊の本にまとめられている。豊橋市の全小学校52校区分がある。そのうち弓張山地を含む校区は、もれなくこの山地にふれている。(牛川校区と岩田校区は山地に接していない。)   西郷・・・弓張山系   嵩山・・・弓張山脈   玉川・・・弓張山系、弓張山脈   石巻・・・八名弓張山地、弓張山系   牛川・・・弓張山系   鷹丘・・・弓張山系   岩田・・・弓張山系、(静岡県側からは「湖西連峰」と呼ばれ、とカッコ書きで書かれている。)   多米・・・弓張山系   飯村・・・弓張山系   二川・・・弓張山地   谷川・・・弓張山脈  以上の記載にはばらつきがあり意図的にそろえたものではない。そして、豊橋市側からの呼び方は「弓張山系」が主流になっている。 ●『新所村誌』(1913年刊)新所村  (新所村はこの年他の4村と合併して湖西町となった。)  「赤石山脈中ノ弓張山脈ハ東北ヨリ来タリテ本村ノ西北隅ナル神石山ニ至リテ止ム」  神石山を最も南としている。湖西連峰の名は出てこない。 ●『知波田村誌』(1913年刊)知波田村  (知波田村はこの年他の4村と合併して湖西町となった。)  「赤石山脈中ノ弓張山脈は西及び北に亘りて・・・」とある。 ※以上の2村誌には「湖西連峰」の名は出てこない。 ●『三ヶ日町誌』 1951年刊 三ヶ日町  「赤石山脈の南端弓張山脈は・・・」とあるのみ。 ●『石巻村誌』 (1957年刊) 石巻村誌編集委員会  この石巻村の範囲は現在の西郷、嵩山、玉川、石巻校区を含む広い行政区である。  「東に弓張山脈・・・」となっている。 ●『多米郷土誌』 (1967年刊) 多米郷土誌編纂委員会  「多米町は豊橋市の東端にあって、・静岡県浜名郡湖西町知波田と赤石山脈の南端弓張山脈で境をしている。」となっている。 ●『弓張風土記』(1980年刊)豊橋市立石巻中学校  石巻中は中山峠、坊ヶ峰、石巻山などを校区とする中学校。「弓張」を校区の象徴として署名にしたと思われる。  当時の教育長が「発刊によせて」という文を寄せていて、そこで「弓張とは、静岡県境を走る赤石山系の支脈、弓張山脈のことで・・・」と述べている。 ●『新 駅からの日帰りハイク』(1984年刊)静岡新聞社  「湖西連峰」の名が使われている。  嵩山-神石山-多米峠-本坂峠-宇利峠を2節に分けて紹介している。地図には神石山から宇利峠までが載っている。別の項では明らかに愛知県側の阿寺の滝なども紹介されているが、神石山以西は載っていない。   ●『静岡の自然100選』(1986年刊)朝日新聞静岡支局  本坂峠・湖西連峰のページが設けられれている。「一帯は浜名湖県立自然公園の一部に指定されている」と書かれていて、静岡側のみを指した表現になっている。 ●『静岡県登山ハイキング143選』(1986年刊)静岡県山岳連盟  湖西連峰の項があり、地図には石巻山が載っているが、文中に石巻山についての説明はない。末尾に「この山波は弓張山脈が本当の名で・・・」とある。 ●『愛知県歴史の道調査報告書Ⅱ 本坂道』(1989年刊)愛知県教育委員会  「愛知県と静岡県の境をなす弓張山系には・・・」とある。 ●『遠州の史話』(1990年刊)神谷昌志  宇利峠の開鑿(かいさく)についての説明があり弓張山脈の名が出ているが、湖西連峰の名はない。 ●『静岡の百山』(1991年刊) 静岡百山研究会  「赤石山脈は蜿蜒(えんえん)と続いてこの神石山を最後に海へと消える」  「(神石山は)湖西連峰の最南端のピーク」  上の『新所村誌』に出てくる弓張山脈を湖西連峰に置き換えたのかもしれない。 ●『豊橋自然歩道 25年のあゆみと案内』(1994年刊)豊橋自然歩道連絡協議会  山並を弓張山系と言い、「同じ山並みを静岡県側からは「湖西連峰」と呼んでいます。」と書かれている。カッコ書きにして特別扱いしている。 ●『湖西風土記文庫』(1996年刊) 湖西市  「大知波峠廃寺」の説明箇所で湖西連峰の名が出てくるのみで、「霊屋峰」の説明では湖西連峰の文字を使わず、「多米峠北方300m付近」とするのみ。また、この山を越える「豊川道」についても「峠を越える」「山向こう」などと出て、湖西連峰の名は出てこない。 ●『静岡県日帰りハイキング』(1998年刊)静岡山岳会 岡本滋 静岡新聞社  「湖西連峰」という項目を設け解説し、「湖西市の神石山から三ヶ日町の宇利峠まで」とする。  嵩山、仏岩、神石山、富士見岩、坊ヶ峰などの名が挙げられているが、石巻山は「石巻山へ」と書かれている。葦毛湿原の名はない。 ●『豊橋の自然発見』(2000年刊)豊橋市  「豊橋市東部の静岡県境付近に南北に連なる山地は山弓張山地で」となっている。 ●『新こんなに楽しい愛知の130山』(2003年刊)あつた勤労者山岳会 風媒社  一貫して「弓張山地」を使っている。湖西連峰の名は出てこない。 ●『葦毛湿原の記録』(2010年刊)豊橋市教育委員会  「葦毛湿原は豊橋市東部にある弓張山地の標高60~70mの・・・」となっている。 ●分県登山ガイド『静岡県の山』(2017年刊) 山と渓谷社  「湖西連峰」の名は載っていない。 ●分県登山ガイド『愛知県の山』(2017年刊) 山と渓谷社  「弓張山地」を使い、神石山の説明で唯一「静岡県側は「湖西連峰」の名に恥じない浜名湖のすばらしい景観」とカッコ書きで書かれている。「静岡県側は」と明記しているところに配慮がある。 ●『三河・北遠ふるさとの山』(2021年刊) 東三河さんぽ会  「弓張山地」という項を立て、弓張山地の山々を紹介している。湖西連峰の名は出てこない。 ●『湖西連峰ハイキングマップ』 湖西市・湖西市観光協会(現在)  「湖西連峰とは」のタイトルをつけて「一般的に、浜名湖の西岸から北岸にかけての山並みを中間にある宇利峠で区切りその宇利峠から宇利峠から南西に続く山並みを「湖西連峰」と呼んでいます。」としている。  地図には「豊橋自然歩道周辺案内」の文字が見られ、豊橋自然歩道も描かれている。全部を湖西連峰とすると誤解を招くし、湖西連峰だけで完結する山道ではないので「豊橋自然歩道周辺」を入れたようだ。 https://hamanako-kosai.jp/location/820/ ●豊橋市観光プロモーション課公式サイト『豊橋自然歩道』(現在)  「豊橋自然歩道は、豊橋市東部の弓張山地一帯に整備された自然に親しむための遊歩道で、・・・」 https://www.city.toyohashi.lg.jp/48435.htm ●静岡県の公式サイト『自然観察ガイドブック』(現在)  「30湖西連峰」の紹介では、地図には富士見台(これは富士見岩のまちがいでしょう)から神石山-仏岩-嵩山のラインしか示されず、石巻山や赤岩尾根、葦毛湿原も描かれていない。 https://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-020/kankyokyoiku/documents/30kansatugaido.pdf ●湖西市ホームページ「名所・旧跡」のページ 現在  大知波峠廃寺の項で「湖西連峰にあり」と書かれている。これ以外には見当たらない。  ついでに言うと、「三河湾や豊橋・豊川市街地が目の当りに見ることができます。」の文があるが、まったくのまちがい。大知波峠から愛知県側は見えない。 https://www.city.kosai.shizuoka.jp/kanko_bunka_sports/kankospot/3290.html

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