【はじめに】 稲積山は豊後大野市三重町白山地区に位置する標高589mのカルスト地形を特徴とした円錐状の、つい登りたくなる魅力的な山です。 残念ながらYAMAPには登山ルートが登録されていません(しかし安全に登山可能)。 昨年、NPO法人大分自然塾のメンバーや地元有志が1年をかけて登山道を伐採作業しながら整備してきた活動が、地元新聞(大分合同新聞)に紹介されました。その記事を契機に、稲積山は、登山愛好者の間で注目される低山となっています。もちろん私もその一人です。 さて、話題が前後しましたが、本来、稲積山は登山というよりは、山体直下に形成された「稲積水中鍾乳洞」の方がとても有名です。恐らく稲積山といっても、登山ではなく鍾乳洞見学と勘違いすることでしょう。 大分には県内を代表する三大鍾乳洞があります。小半鍾乳洞(佐伯本匠)、閉塞型の風連鍾乳洞(臼杵)そして稲積水中鍾乳洞(豊後大野市中津留)がそれです。 それぞれ国内でも有名な鍾乳洞のようですが、特に稲積水中鍾乳洞は、全長が1kmにも及ぶ洞長をもつことから日本最大級の水中鍾乳洞となっています。恥ずかしながら知りませんでした! 鍾乳洞の母体となる稲積山は、当然石灰岩を主体としたカルスト地形を擁しており、山体内部を構成する石灰岩には至るところが溶解し、さしずめ蜂の巣状の山内部構造を呈しています。 稲積水中鍾乳洞は、2億年前に形成された鍾乳洞が、阿蘇山大噴火によって水没したことに起源を辿ることが出来ます。もう生命の起源を辿るかのような壮大な話しです。 結局、九州の山々の形成もそうですが、今回の鍾乳洞然り、常に阿蘇山の大噴火がそれぞれの成り立ちに深く関係しています。阿蘇山は九州の母なる大地ですね。 稲積山のカルスト地形は、堆積石灰岩(炭酸カルシウム成分)が二酸化炭素を含んだ雨水や地下水に浸食されることによって形成される特殊な地形、すなわち、穴(ドリーネ)、大きな穴(ウバーレ)、拡大穴(ポリエ)、浸食奇岩などを特徴とした地形です。 稲積山は山頂に近くなると、表層に二次的に堆積した土壌が雨水で流れる出すため、カルスト地形独特の石灰岩が羊の群れのように地表から突出する典型的な美しい光景を作っています(実際山頂は絵になるうような美しさ)。 ただし、稲積山の登山道からは、成長した稲積水中鍾乳洞に見合うだけの陥没ドリーネは剝き出しになっていないようです(稜線にはすこし存在)。もし、登山道にそれらが散在すれば安全上困ったものです。 【稲積山登山-1】 今回、稲積鍾乳洞有料エリアに設定された登山道(中津留登山口)を往復利用しました。 稲積水中鍾乳洞敷地内にある登山口は標高187mですので、稲積山山頂(589m)までの標高差は約400mとなります。往復2kmの大した山行ではないように思えますが、片道水平距離1kmで400m登るという直登ルートは想像以上に厳しいものです(平均傾斜26度)。それでも、山頂の光景や景観の素晴らしさは、苦しく厳しい登りの労力をすべて払拭してくれます。 【稲積山登山-2】 受付にて入場料1000円を支払って(登山後、稲積水中鍾乳洞見学料含む)稲積鍾乳洞有料エリアに入ると、右手に進み、右手にある「あいがもと鯉の池」を横目で見ながら80mほど進むと左手にやや大きめの杉の木に赤いテープで固定された「稲積登山口」に辿りつきます。 山の入り口には、ご丁寧に木製の小さな階段が設置されており、最初から整備の方のやさしさを感じます。 階段を過ぎると直ぐに右に迂回し、尾根に入るまでの雑草茂る畦道風の山道をのんびり歩くことになります。その後、すぐに山頂に向けて急な登りが始まり、稲積山登山の本格的な始まりです。この段階では、まだゴツゴツした石灰岩は見当たらない尾根をひたすら登り続けます。 山道には、随所にピンクまたは赤いテープが木に結ばれており、登山者を迷いなく誘導してくれます。また岩が多めの道迷いしそうな場所でも、新品のトラロープが惜しみなく山道横に張られて、山頂までのルートを誘ってくれます。 整備してくれた方への感謝を思いながらローブを握ることになるでしょう。 足場は全般に枯れた落ち葉が沢山あるため、やや滑りやすい状況が続きます。下山では注意しなければいけないでしょう。 急登も標高約350mに達すると、少しだけ平坦となる場所が出てきます。しばし、景色を楽しみながら、一息入れるポイントとなるはずです。 また、ここで登ってきたルートを見返すと、汗の量に見合った傾斜ある山道に気づき驚かされます。 標高400mを越えた当たりから、急に大きな岩が林立し始めます。このころから手も使った岩登りも必要となりますが、危険な場所は一切ありません。 巨大な岩の間を抜けるルートも増えてきますが、それと同時に周囲の景観もカルスト地形独特の素晴らしい雰囲気と変化します。また、樹林の間からは、遠くの山々も見えるようになってきます。南東方向の展望からは、豊後大野市と佐伯市宇目との境に位置する鷹巣岳(720m)・小表山(711m)、柏山(680m)が見えてきて思わずニンマリです(マイナーですが鷹巣山はいい山)。 山頂に近づくと登り勾配も小さくなり、そのころから浸食された大きな石灰岩群が目立ってきます。まさにカルスト地形の山ということが実感できます。 スタートして約1時間で「稲積山山頂」に到着。 国土地理院に山名が記載されているにも拘わらず、山頂には正式な山名プレートが設置されていません。その代わりに、新しく作られたと思われる稲積山と書かれた手作り標識が岩の間に立てかけられています。 山頂は事前リサーチ通り、間違いなく癒やされるエリア、またここからのパノラマ景観も満足できるレベルです。ランチエリアとしても秀逸で、ここが憩いの場所であることは間違いありません。 景観になりますが、遠くに九重連山、祖母山・障子岩、一方近くには、傾山(3つ坊主峰)と大崩山系が見渡せます。 特に、山頂前方に見える「傾山」を側方から眺める姿は絶景と言えます。傾山ファンにはたまらない景色かもしれません。個人的にもお気入りの光景です! 標識から祖母山系に向かうように山頂の先に足を伸ばすと、そのエリア一体は木々が大々的に伐採されているため、展望とは別に露出した羊群岩様の石灰岩を楽しむことができます。 また、さらに山頂前方には「夜星三角点(よぼしさんかくてん)と呼ばれる別のピーク(613m)もありますが、今回は確認していません。 山頂を注意深く眺めてみると、稲積山の稜線上に開口する「ドリーネ」の存在に気づきます。この小さな竪穴が稲積鍾乳洞のいずれかの場所と通じているのかと思うと、不思議な感覚になります。蜂の巣状の山体が稲積山であるというイメージはなかなか実感できませんが、現実はそうなんです。 下山は登りと同じリートを辿ります。しかし、下りではしっかりテープを確認しないと道迷いにつながるような側道が沢山あります。 実際、三度ほど正規の山道を外れて修正が必要な経験をしました。 稲積山の魅力は急登を除けば、比較的簡単に山頂にアプローチができることでしょう。また、山道からも山頂からも、とにかく素晴らしい景観を楽しませてくれる山と感じました。リピートしたい山の一つですね。 下山後、洞窟は閉塞感があり少し苦手ですが、初めて稲積水中鍾乳洞も全域で観賞してきました。 当日は、外から内から稲積山を愉しませていただきました。稲積山そして稲積水中鍾乳洞に感謝します。ありがとうございました。 追記1:稲積水中鍾乳洞敷地内には、あいがもと鯉の池と白山川の間に高さ22mもの昇龍大観音)(ピッカピッカの金色に輝く観音様)が鎮座しています。観音様は、稲積山の方向ではなく、白山川の上流を向いて立っています。 追記2:稲積山近くの八坂津留地域には、かつて日本セメント(浅野セメント)、現在は秩父小野田セメントと合併した太平洋セメント㈱による石灰岩の石切場が稼働していた時期があったようです(稼働時期は不明)。そのため山域には日本セメントを記した境界石柱が埋め込まれています。 ちなみに、日本セメントの前進の浅野セメントは、1884年に浅野総一郎があの渋沢栄一と共同経営に携わっていたという情報もあり驚きです。 稲積山は、地元では知る人ぞ知る魅力的な山との認識はあったようですが、石切事業に拘わる林道(林道八坂津留線)が久部側の山域に整備された歴史がある一方で、万人が気軽に稲積山を楽しむための登山道の整備は、なぜか最近まで行なわれていなかったようです。理由は分かりません。
豊後大野市中津留地区、稲積水中鍾乳洞入り口(受付)、左手上に稲積山が見えます。
施設内に設定された登山口。
細尾根を少し歩き本格的に登山道に入ります。
急登のスタート。雰囲気がいい尾根です。
新緑が映える尾根道。
急登を振り返ります。
ゴツゴツした石灰岩が現れてきます。
新緑尾根道ふたたび。
標高350mを越えると大きな石灰岩が目立ってきます。
新緑と石灰岩のコラボ、素敵です。
山頂に近づき視界が開けてきました。石灰岩ゴロゴロです。
石灰岩の間を縫って登ります。トラロープも出てきます。
山頂間近の癒しのスポット。
この先ぐ稲積山の山頂。気持ちが高揚します。
巨大な石灰岩!
最後の尾根道。日差しが眩しいロード。
山頂到着! 山頂先に見えるのは祖母山系。
山頂からの振り返り光景。
山頂からの側方光景。
久住連山が見えます!
祖母山系です。
大崩山系です。
山頂近くの傾山!
標識と傾山!
大崩山系、夏にチャレンジします!
傾山と三つ坊主峰!
しつこく傾山!素晴らしい景観!
山頂からのパノラマ撮影!
山頂にある木陰スポット!ゆっくり寛ぎたい場所です。
鷹巣岳、宇目方面!
山頂には柱状節理の岩も出現!
なかなかいい雰囲気!
山頂までのセラピーロード!
下山スタートポイント。
植物の名前がわからず悔しい!勉強します。
下山、急な下りが待ち受けています。
ロープ場、助かります。
特徴的な石灰岩!
拡大です。
無事下山!登山口まで辿りつきました。
稲積水中鍾乳洞に初めて踏み入れました!
鍾乳洞内部。
広くて一番華やかな鍾乳洞内の天井!
水中鍾乳洞!
稲積水中鍾乳洞入り口から見た、稲積山全容!綺麗な円錐形です。
金色に輝く観音様!22mです。
山頂憩いスポット!再掲。