活動データ
タイム
09:35
距離
14.7km
上り
1709m
下り
1708m
活動詳細
すべて見る✻✻✻ ギボシのてっぺんで ✻✻✻ 山歩きしていると、時に信じられないようなことが起こる。この日、ギボシのてっぺんで出会った彼もそうだった。 登ってきた私の顔を見て、ホッとした表情を見せた。そして信じられないことを口にした。「この先の道がわかならくて困ってるんです。」え?この先って!?まさか、この先は断崖絶壁だ。道はない。 「僕、シロウトなんです。ここまで来るのもスゴく怖くて。下山する自信もないんです」「どこから来たんですか?」「観音平です」「同じコースで下山する自信がなければ、権現岳を越えて三ツ頭山経由で下山してはどうです?」 すると、彼はまたとんでもないことを口にした。「え?ここが権現岳じゃないんですか?」「いいえ、権現はあそこですよ」と私。 彼は権現に目をやり、遠い目をしてこう言った。「あそこに行くのは無理です」「いえ、安全な道がついてますから」 「地図もってます?」「いえ、スマホの地図で登ってきました」僕はザックからエアリアマップを取り出して、ていねいにルートを説明した。「この地図、あげますから。地図で確かめながら気をつけて下山してくださいね。」 ギボシと権現を結ぶコルまで彼を誘導する。けれども彼は恐怖で、完全に腰が引けている。無事を祈って送り出す。 山は美しい。けど、その美しさに触れるためには、それ相応の心構えと実践が必要だと思う。 ✻✻✻ 富士見高原リゾート~西岳~権現岳 ✻✻✻ さて、時計を巻き戻すと・・・久しぶりの不動清水。ここから樹林の小径。森は刻々と表情を変えていく。崩壊地のガレに差しかかると、展望が開けた。堂々たる南アルプス。編笠山のシルエットの脇に顔を出しているのが富士山だった。 西岳の小広い広場には、ひっそりと亜高山帯の花が可憐に咲き誇っている。だが、ギボシと権現は厳しい表情の黒雲に身を隠していた。 西岳を後にすると、コケとキノコのステキな道が待っていた。乙女の泉を過ぎ、青年小屋から権現へと登り返していく。森を抜けると、アルペン的な景色になった。足元にはイブキジャコウソウ、コバノコゴメグサ、ウメバチソウ、ミネウスユキソウ・・・ 行き交う登山者のみなさんは、それぞれの人間模様。バテバテで2リットルのPETボトルをがぶ飲みするおニイさん。赤岳を越えてやってきた賑やか三人組・・・ ギボシの分岐を経て、権現小屋へ。そして権現岳の山頂だ。山頂岩で映えるポーズに工夫を凝らす二人組。三ツ頭方面の小広場からは、女子のにぎやかな声が響いている。 会心の眺望が待っていた・・・阿弥陀・赤岳・槍・穂高・乗鞍・御嶽・木曽駒・空木・鋸・甲斐駒・仙丈・北岳・金峰・北奥仙丈・国師・両神・御座・・・ ✻✻✻ 権現~ギボシ~青年小屋~編笠~富士見高原リゾート ✻✻✻ 登ったら下らないといけないのが登山者の常だ。西岳、権現小屋、ギボシ、青年小屋、編笠への流れるようなスカイラインを見ながら山頂を後にする。 奥には南アルプスの長大なシルエット。盆地の底には町々が広がっていて、そこには人の営みがある。そして見上げる空は広大無辺だ。 これは箱庭なんてものじゃない。小さな宇宙だ。生きとし生けるもの、そしてそれを包み込む大自然。それが一つの生命体のように世界を形づくっている。 賑わいを見せる青年小屋の前で一息つく。長居はせず、編笠岳に向かった。 そして編笠の山頂。湧き立つ雲がドラマを演じている。居合わせたみなさんと天空のマジックショーをシェアする。景色は刻々と表情を変えていく。 自然は人知を超えて聡(さと)い。すべてに意味があってこうなんだと思うにつけ、そこに生かされる人間の存在も、きっと意味あるものに違いないと思えてくる。 さあ、下山だ。大きな岩を跳び渡って高度を落とす。いつしか幽玄の森に吸い込まれていた。ウキウキ顔の自分を想像しながら、ますますニヤける自分を感じていた。
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