聖者が尾根に     やってきた ~後編~

2021.12.25(土) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
3 時間 13
休憩時間
1 時間 11
距離
5.2 km
のぼり / くだり
151 / 741 m
2
2 8
1

活動詳細

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(前編から続く) 「ここまでにして降りようか…」 真っ先に浮かんだのはその選択だった。YAMAPのGPSがないことで途端に不安になっている自分がいた。地形図もコンパスも、もちろん持っている。現在地だってちゃんと分かっている。 しかしながら、猛烈に降ってくる雪の中で、YAMAPだけに頼り切ろうとしている自分が見えた。 「GPSが起動しないから先に進めない?!」「ついこないだまで地図とコンパスだけで歩いていたじゃんか!」「あと少しでpeakだろ?」「あと少しだからこそ撤退する勇気を!」 いろいろな思いが頭を駆け巡る。 まずはザックを下ろし、テルモス(年寄りはサーモスをこう呼ぶ)の温かいお茶を飲む。 満タンに充電してある(はず)のモバイルバッテリーをスマホにつないで、ちょっと待つ。1%…2%…。充電できているようだ。もう一度電源を入れ、YAMAPを起動してみる。立ち上がる。現在地を示す。3%…4%…。ちょっとホッとする。 とはいえ、雪で濡れたスマホがまたいつダウンするかは分からない。 モバイルバッテリーにつないだスマホをケースごと左手で包み持ち、右手にピッケル。アイゼンを岩にきしませながらトラバース。激しくなる雪の向こうに見える、左側の尾根に乗ったところで、YAMAPを見てみる。思った通りの地点にいることを確認して、最後の標高差50mを登っていく。腰まで雪に沈んで、なかなか進めない。 「タイジョウ5」 黄色い道標。 なんだ?peakか?だったら「タイジョウ1」とかじゃないの? あちこち周囲をさまよってみる。が、山頂板らしきものは見当たらない。とにかく風雪が激しい。 「タイジョウ5」に戻って付近の木を見回す。赤テープが頭上の幹に巻き付けてある。何か書いてある。「タイジョウ」と書いてあるようなそうでないような…。YAMAPで現在地確認。確かにここはタイジョウらしい。 「早く降りないと危険だな…」 1000mちょいの標高で、アルプスにでも登頂したような雰囲気になっている自分に笑えてくる。物理的にただpeakに身を置いただけの登頂を済ませ、来たルートを足早に降りていく。 peak911とタイジョウとの鞍部が、登山口である渋川の源頭部だ。杉峠を目指すのは天候的にも陽の長さ的にも無理と判断、この谷を降りることにした。 踏み跡はほとんど見えないが、所々にピンクテープがあり、丁寧に追っていけば、迷うことはない。ルートも、谷底を避けて巧みに付けられており、急な下りの印象はない。 しかし、である。 谷を降り始めてから雨に変わったその降りようはなかなか激しく、べちゃべちゃのみぞれ状になった雪が、その下に積もった枯葉と、さらにその下の地面と混ざり合い、壮絶な“滑り物質”となっていたのである。 いつもながら、どこでアイゼンを脱ぐかは、悩ましい。地面の泥や小石に刃がきしむうっとうしさにアイゼンを外すと、その途端にまた雪に覆われた地面に戻ることがあるのだ。 素晴らしく良い道にぶつかった。地形図を確かめるまでもない。杉峠に続く道だ。「杉峠からイブネを目ざす」とおっしゃっていた、出発時にお会いしたベテランの方たちが登っていかれた道に違いない。 「千草街道」 看板が現れて納得する。なるほど。この道がかの有名な。朝明から根ノ平峠を越えて、コクイ谷を経て杉峠までは歩いたことがあったが、なるほどここにつながっていたのか…。 いつの間にか雨は止んでいた。信長も越えた、伊勢と近江をつなぐ名路の歴史の重みを感じつつ、愛車の待つ橋のたもとへと降りてゆく。 先輩方の車はまだあった。 本当なら山上で食べるつもりだった味噌煮込みうどんを温めながら、鈴鹿山脈滋賀県側のもつ静けさと奥深さに浸るのであった。

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