谷川岳肩の小屋と主脈縦走路 戻る 次へ

終わりなき世界 谷川岳の写真

2021.10.18(月) 09:01

谷川岳肩の小屋と主脈縦走路

この写真を含む活動日記

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15.6 km

1641 m

終わりなき世界 谷川岳

谷川岳・七ツ小屋山・大源太山 (群馬, 新潟)

2021.10.18(月) 日帰り

『おくりびと』 登山道を歩いていると、時折り慰霊碑を見掛ける事がある。辺りを見回し何故ここでと心が痛み、自分はまだまだ先だと信じるが誰もが通る死後のこと今日の登山の歩きの中で少し考えてみた。 何年か前、映画の「おくりびと」を見た。俳優の本木雅弘が演じる主人公が、ひょんなことから納棺師となり故人を見送る人間ドラマだ。あまり日本の映画は好きな方では無いが、たまたま見ていて何故だか心が熱くなり、人としてこんな形で最後を見送られたいなと心は揺らぐ。この歳にまで何度となく誰かの死後を見送ることが多かったが、ただひとつも感動をすることの無い儀式と重ね、どうせ映画の中での世界に惑わされているのに違いないと思い掛けていた。 誰かの死後に立ち会う機会、多分私は普通以上に多い。隣組の誰かや会社の上司・同僚・部下とその家族、自身の家族や親戚など、多い時にはひと月に3度も有った。何度となく身内でも無いのに納棺のお手伝いから棺を担いで出棺までも手を貸していて、人の死と向き合う数も多分自身の年齢近くは有ったはず。 自分が死んだら山でもいいから散骨してねと子らには言うが、それっ不法投棄だからとたしなめられる有様に、おちおち死んでもいられないなと笑う。 あの映画を見てから数年後、家族が随分お世話になってた本家の叔父が亡くなった。その葬儀に故郷へ帰り通夜を迎え、斎場へと出棺の儀を執り行うその時、背後から現れた納棺師が口上を述べ亡くなった叔父への死装束へと静かに衣替え。その所作を見ていて、まるで映画のワンシーンそのままに繰り広げられ、その後も参列者一人一人が故人と向き合う時間を通して人としての最後に接し、こんな世界があったのかと改めて心が揺らぐ。山での事故は無いに越したことはなく、せめて人生の最後は人として見送られたいものだと、目を落とし路傍の石を静かに見て思う。 さて今日の山、谷川岳である。 この山は、ギネスに乗るほど不名誉な記録を持つ山域にあり、一番易しい天神尾根コースでさえも先々週だけで4件の遭難事故(重症1件)が発生し、先週も白毛門へ登っている時に救助のヘリが飛んでいた。過去の遭難死者数(806名/〜2012年)世界一には驚くが、今日の登山で「おくりびと」の世話だけにはならないようにと気を付けて。 計画は、以前からずっと温めていたコースを考え体が無理なら撤退視野に試してみようかなと思うのだ。そのコース、土合橋Pから谷川岳を経て茂倉岳まで縦走し土樽駅へ下りるとJRを使って戻る周回コース。まだ怪しさ残る体を気にしているが、前向きに挑んで見ようかと思う。 朝4時、気温5度、天気予報は頼りなく晴れ。土合橋駐車場からマチガ沢沿いの巖剛新道登山口へと向かい西黒尾根合流部のラクダのコルを目指す。このルート日本三大急登と云われる西黒尾根へショートカットで登れる所でキツさはお墨付き、合流後も山頂まで一気に高度を上げる嫌らしさに吐く息も切なくなるのは間違いが無い。マチガ沢を横目に見ながら高度を上げるが空が白々と明け見えて来た周囲の山が何故だか白い!何かの間違いか?雪で真っ白に見え少し驚くのは、先週の白毛門登山は猛暑で今日は雪が降っていたからにほかならない。だが、ここは臆せずひたすら四肢を使い急登を越え何度も岩場にしがみつく。振り返ると先週登った白毛門が間近に見えて、改めてその山容を確かめている。目線を戻し見上げれば谷川岳が聳えて見えて、このコースを選んで良かったなと思える景色に足を止めそこかしこを眺め見ていた。 今回の登山の核心部はこのルートを辿り谷川岳の山頂までにあり、ここを自分のペースで攻略できれば下山までの長丁場も楽しみながらの登山になるはずと、微かな期待を持っている。そう云えば今日の登山で気になることがひとつある。土樽駅での上越線の発車時間に間に合う様にと歩かなければならないことで、今まで経験したことのないプレッシャーを少し感じていて、ラクダのコルまで登り覆い被さるような山塊目にして奮い立ち、ひたすら踏み跡僅かの雪の斜面を登り続け目指した頂きに立つ。 谷川岳である。 文句なしの山頂から見る谷川連峰のうねりに見惚れ、上越や上州の山々に目線を移し届かぬ景色に夢を見る。 まずはトマノ耳、そしてオキノ耳。一座一座を踏み締めたが、ここから先はトレースなく誰も通らぬ凍り付いてる雪の斜面におののきながら鞍部へ下りて見上げる程の急斜面を登り返せば次なる頂きがある。 一ノ倉岳である。 今来た道を振り返ると荒々しさが剥き出しの谷川岳が見え、その山とは対照的に穏やかに笹原広がるだけの頂きに立ち、万太郎谷から吹き上がる冷たい風に背を押され、あと一座をものにして下山の長い道を行く。 ふりかえり 3週をかけて谷川連峰縦走路と馬蹄形の始まり終わりの両端を摘んでみた。歩くたび、この山域がたまらなく好きになってる自分がいて、人生の後半に来て共に歩いてくれる山友達にはいつも感謝をしている。更に今日は途中から初めてお会いしたtomoさん合流でいつもと違う楽しい登山になってこちらも感謝している。 おまけ 40年近く前、万太郎谷の谷奥から何度も見上げた山を歩き通して叶う夢、心が騒ぎ夢中の今を振り返り、まだ残る夢を見る。 今日も、ご安全に!おつかれ山〜