晩秋×暴風雨×大キレット=二度と行かない

2021.10.10(日) 5 DAYS

チェックポイント

DAY 1
合計時間
7 時間 22
休憩時間
30
距離
13.5 km
のぼり / くだり
1678 / 178 m
DAY 2
合計時間
7 時間 46
休憩時間
41
距離
9.8 km
のぼり / くだり
1025 / 1108 m
46
17
29
1 15
22
17
1 37
DAY 3
合計時間
8 時間
休憩時間
37
距離
10.4 km
のぼり / くだり
1236 / 700 m
33
34
37
1 13
DAY 4
合計時間
8 時間 23
休憩時間
19
距離
6.6 km
のぼり / くだり
884 / 1009 m
DAY 5
合計時間
6 時間 8
休憩時間
28
距離
16.8 km
のぼり / くだり
167 / 1651 m

活動詳細

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ずっと待ち望んでいた、勤続10年でもらえるリフレッシュ休暇、驚愕の10連休。どこに行こうか、何年も前から空想にふけっていたが、世の中の状況から国内にせざるを得ないため、北ア縦走2回に費やすことにした。 前半の劔~立山縦走(三泊四日)では、神々しい立山と偉大な劔の姿を堪能し、こんなに幸せでいいんだろうかとしみじみ思ったものだったが、後半に計画したルートでは、山が嫌いになりそうなほどひどい目に遭ったのが、今回のお話。 初日は、双六山荘までの行程だが、日陰を選んで歩くような季節外れの暑さだ。とにかく暑い、冷たい水がほしい、鏡平小屋についたら冷えたポカリスエットが飲みたい。そう思う一方で、期待しすぎないことが大切だということを、豊富な人生経験から学んだ私は、いや、もしかしたら小屋が閉まってるかもなどと考えたりもしていた。果たして、小屋はまだ営業していたし、かき氷ののぼりもはためいていたが、かき氷も、全ての飲み物も売り切れだった。やっぱり期待しすぎないって大事だなと改めて思いつつ、100円でナルゲンに水を足した。 ここから弓折乗越までもうひと頑張りすれば、双六までのご褒美のような稜線歩きだ。たっぷり汗もかいたことだし、早くビールが飲みたい。そう思う一方で、なぜか心のどこかで「期待しすぎてはいけない」というブレーキがかかったのは、私の冴えわたる第六感が、双六山荘でビール売り切れという非常事態を感知したからだろうか。 汗だくで歩いて来たのに、ビールがない。そんなこと考えられるだろうか、いや、ない。反語だった。せめてあらかじめ言ってくれれば、担いできたものを、と心の中の恨み節を止められなかった。 売店「残っているのは熱燗と、ウイスキーと・・・」 いや、ちょっと、熱燗はないでしょうが。仕方ないので、冷えた日本酒をヤケ酒のようにあおった。 二日目も晴天。伊藤正一さんや黒部の山賊達に思いを馳せながら、三俣周辺をウロつく。双六岳の天空の滑走路は、いまだスッキリ晴れてくれたことがない。それでも山頂から下った先は晴天で、三俣山荘にはビールもたっぷりあった。というか、この先の行程でもビールを切らしている小屋なんてなかった。 三日目は、雨の中を三俣山荘から槍へ向かう。西鎌尾根は、晴れていればさぞかし気持ちが良い稜線歩きなことだろう。雨はさほど強くなく、降ったりやんだりしていた。靴の中は濡れていないと思っていたが、実はびしょ濡れになっていた。ファイントラックの靴下レイヤー(五本指のメッシュのやつ)、恐るべし。 槍ヶ岳山荘に到着したころには、かなり寒くなっていたので、もはやビールは飲みたくなかった。誰もいない、そして火の気もなく寒い「キッチン槍」で、明日も天気悪いんだよな、など思いながら、ワインを飲みつつ夕食まで疲れを癒した。 翌朝、やはり天気はさらに悪化し、雨風共に強く、視界もない。本当にこの中を大キレットを超えて、穂高岳山荘まで行くのか?本気か?本気と書いてマジか?そう思いながらも、とりあえず小屋を出る。このルートは以前、晴れた日に大変気持ちよく通ったが、その記憶とは何ひとつ合致しなかった。 ユウウツでしかないな。そう思っていた時、ふいに足が滑って思いっきり尻もちをついた。どんなシチュエーションだったかすら覚えてないほど、普通に歩いていたか何かしていた時だと思う。もし、切れ落ちた崖の上でこの滑りが発生したら、ガスに閉ざされた視界のはるか下で、ミンチになっていたかもしれない。また何かが守ってくれた、そう思った。 天候は悪くなる一方で、3000メートルの稜線にただひとり、暴風雨に殴られながら、なぜ10年に一度の長期休暇にこんな目に遭ってるのか、意味が全く分からなかった。心の中であらん限りの悪態をついてみたり、何かに謝ってみたり、神に祈ってみたりする。乾いていればなんでもない場所なのに、雨によってグリップが失われて、とんでもなく神経を使わねばならない。一体あと何時間、こんなことを続けるんだろう?まだ7~8時間かかるはずだが、本当にそんなに集中力が続くのか?わずか10mほどしかない視界の向こうに、ぼんやりと岩壁がそびえる度に、心が何度も折れた。もう二度と来るものか。 寒さに凍えながら、やっとの思いで穂高岳山荘にたどりついた時、達成感など微塵もなかった。乾燥室へ直行してあらゆるものを干した。双六でいらないと思った熱燗が、今は欲しくて、心の中で熱燗に謝った。 小屋の宿泊者はわずか5人で、あたたかい部屋で宴会をしていた。 紳士「どこから来たの?」 私 「槍から…」 紳士「えっ!槍から!?ちょ、槍から来たってよ!」 と宴会に歓待され、 紳士「何飲む?なんでもあるよ!」 と、最高に盛り上がった宴会が始まった。 翌日は快晴で、本当なら西穂へ抜けて車を回収する予定だったが、心の折れ具合が激しく、奥穂の山頂すら踏まずにさっさと上高地へ下山した。当分穂高なんか見たくもない。

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