活動データ
タイム
10:20
距離
17.8km
のぼり
1560m
くだり
1562m
活動詳細
すべて見る透き通る清流に開放的な景観、美しい源頭部が魅力の鳥海山檜ノ沢に行ってきました。檜ノ沢も素晴らしかったですが、登山パートも長いこのルート、下部の滝群や美しいブナ林、千畳ヶ原の雄大な眺めと鳥海山の魅力にたっぷり疲れた最高の1日でした。 【檜ノ沢】 景観良し&難所無しということで人気の沢。万助小屋手前から入渓しますが、水量も少なく登攀要素も問われないので、沢の難易度としては1級です。ハンマーはおろか、ロープすら不要です。ストレスを感じたのは登山道から沢に降りる樹林の急な下りくらいですし、それも立木を掴みながら降りればなんてことはありません。個人的な1番の核心部は源頭部の美しい草原をいかに踏圧を加えず通過するかでした(火山なのでそこら中に噴石が散乱していて、飛び石伝いに歩けば山へのダメージをかなり軽減できます。ほぼ石の上を歩けたので95%くらいはダメージ削減できたかな…)。笹藪なら東北の山のそこらかしこで王者のごとく繁茂しているので遠慮せず突っ込むのですが、鳥海山の花畑となれば話は別。沢登りは時たま原生の自然に踏み入らなくてはいけないので登りたい反面葛藤も大きいです。まぁ登山自体山を傷つけるという原罪を背負っているのではありますが。 さて肝心の沢ですが、素晴らしいです。まず清らかな水流。森林限界を超えた沢&湧き水がそのまま流れる沢であるためか、とにかく水が綺麗です。普通の沢は森の中を流れていますが、その過程で大量の有機物が溶け込むからか透き通るような水の流れにはなかなかなりません。しかし檜ノ沢は違います。入渓地点から木が低いですし、やがて高山帯に入ります。恐らく日本でも屈指の積雪量を誇る鳥海山の沢筋ともなれば大量の積雪となるので(この沢も7月まで上部は雪渓のようです)、樹木の進出を妨げ結果的に高山帯のような景観が生まれます。疑高山帯という東北の山の特徴の1つですが、ここ檜ノ沢ではその性格が際立っているんだと思います。それから湧き水。鳥海山は火山、当然ながら火成岩で形成されています。この火成岩というヤツが多数の穴を有するため水を浸透させ山に水を貯えるので、鳥海山に限らず火山の周辺には湧き水が多いです。檜ノ沢も鳥海山のど真ん中から流れているので、はじめの一滴は恐らく湧き水。ゴーロに隠されているので確証を得たわけではありませんが、あの水の冷たさと突然一定量の水が滔々と流れ出す様子は湧き水とみて間違いないでしょう。通常の沢なら源頭部に行くと沢床の土にじんわり水が染み入るような感じで段々消えていきますが、檜ノ沢はパッタリ流れが途切れますしね。そして湧き水ということは、山に磨かれた不純物の少ない水なので綺麗ですし、冷たいので微生物もあまり生育できず綺麗さが保たれるんじゃないでしょうか。水を汲んで調査したわけではまったくないですが、檜ノ沢の流れが綺麗な仮説であります。 そしてもう一つ檜ノ沢の恵まれているところは、南向きであること。つまり日光が入りやすいのです。沢を登られた方なら、日の光に照らされた水流の美しさをご存じでしょうが、残念ながら沢登りで太陽を浴びられる時間はかなり限られます。ただでさえ谷地形であるうえ、森の中なので日陰時間の方が長いかと思います。加えて興味深いのが、多雪の沢であるためか水成地形であるとともに氷食地形的性格が見られるのではないかと言う点です。特に上部は顕著ですが、雪渓が長らく残るところはV字谷というよりU字谷に近い感じで、それがより光を沢床に届ける要因になっている気がします。この明るい渓相は、沢と言う陰の地形において特異な存在であると評価できると思います。 明るい沢、とだけあって景色も素晴らしいです。遮るものがない遡行中に振り返ると、庄内平野がドーンと広がっています。日本有数の米処ということも景観を濃厚なものにしています。圏外にならない沢は初めてでした。それだけでも稀有な沢であることが分かると思います。 遡行だけでも鳥海山の卓越した絶景を堪能できるのですが、登り詰めた源頭部がこれまた印象的。笹藪を掻き分ける詰めなんて泥臭いことは一切なく最後まで青空の下開放的な歩きを楽しめます。鍋森は普通の鳥海山では見下ろすものですが、檜ノ沢は鍋森が源頭部。丸い山容を目指して詰めていけば、鍋森のかつての噴出物に囲まれさながらロックガーデン。振り返れば笙ヶ岳の草原。遡行者の多くが日本指折りの美しい源頭部と称賛していますが、納得の景観です。そして沢の遡行が終わるタイミングで、目の前に鳥海本山が目の前に姿を現します。フィナーレまで完璧に仕上げてくれる至れり尽くせりの沢です。 万助小屋手前900m付近で入渓する記録が多いですが、下部は下部で7月の融雪時期は空恐ろしい程に青く透き通った美しい流れに身を委ねることができるようです。 【檜ノ沢以外の登山パート】 檜ノ沢自体もかなり鮮烈なのですが、遡行時間は3-4時間。一般登山道を長く時間の方が長い点でも珍しい沢です。でもこの登山道が良い。なんてったって鳥海ですから。 鳥海湖:自明で素晴らしい景色。鳥海山で最も好きな風景の1つです。登山道合流地点から近かった&パートナーが行ったことなかったので御浜小屋・扇子森・御田ヶ原と一周する形で鑑賞。何度見ても“チート”な景色です。 千畳ヶ原:ここも称賛の声が止まない鳥海山の切り札の1つ。以前登った時は湯の台方面に抜けましたが、二ノ滝コースに降りていくと日本海を眺めながら広大な草原を降りていけるので最高に気持ち良いですね。下部の草原が乾燥化しているのか笹が侵出しているのが気になりました。 二ノ滝コース:今山行の個人的な目的の1つ。鳥海山は鉾立・稲倉岳・祓川・湯の台と四方から登っていますが、南西側は手付かず。元々一度歩いてみたいルートでした。 登山口に一の滝神社が建立され古くから山岳信仰の道として歩かれているのかと思いきや、昭和7年に開拓されたんですね。新しい道なのに登る距離が長いからか人が少なく静かな道です。特に馬の背周辺は刈り払いもしばらくされていないようで、一般登山道からゆくゆくは外れてしまうんじゃないか心配になりました。 でもそれを差し置いても良い道です。まずブナ林が良い。鳥海山のメジャーな登山口は標高が高く森林限界に達しているので、東北自慢のブナ林を味わうことができません。しかし二ノ滝コースにしろ万助コースにしろ、一の滝神社からの登山ルートでは目が醒める程に美しいブナ林を歩けます。鳥海山のブナ林の多くは伐採されてしまったようですが、ここは数少ない鳥海ブナに囲まれた貴重なエリア。若いブナというのもなんだか嬉しくなります。ここを起点に、再び美しいブナ林が鳥海山麓に復活することに期待しちゃいます(鳥海山にブナを植える会、応援しなくちゃな) それから、滝。鳥海山の多くのルートは尾根沿いなので、「鳥海の沢」というと一般登山者にとっては馴染みが薄いかもしれません。でもこのルート、「滝」と付くだけあってとにかく滝が豊富。距離はありますが飽きの来ないルートです。鳥海山でも数少ない沢沿いルートと言う点でも価値あるルートです。沢ヤにとっても、南のコマイの連瀑と深いゴルジュには度肝を抜かれることでしょう。水量も半端ないので、檜ノ沢と違って相当な手練れでないと突破は叶わないやもしれません。でも水の流れは檜ノ沢に負けず劣らず美しい鳥海ブルーなので憧れの的ですね。 通常の沢だと遡行が終わってしまえば”作業”ともいえる味気ない下山となることも多いですが、さすが鳥海。最後の最後まで楽しませてもらいました。もはやズルいですよね。こんなに裾野にまでぎっしり絶景を隠し持っているなんて本当にチート級の名山です。7回目の鳥海山ですが、今まで気づかなかった魅力、それも稜線の景色に比肩する素晴らしい魅力に出会うことができました。ただし脱渓してから歩く時間が長いので、沢靴だと少々シンドかったです。 鳥海に行くたびに思っていますが、今回もまた「ありが鳥海」と思える素晴らしい山行でした。
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