活動データ
タイム
40:18
距離
52.7km
のぼり
4150m
くだり
4147m
チェックポイント
活動詳細
すべて見る※いつにもまして長文です! 本文エッセイ調、写真は現場実況(ガイドさん、ツアーのこと、注意箇所・登山道詳細等)。用途に応じてかいつまんでくださいませ…! ※岩苔乗越~高天原は一部ルート不明瞭、渡渉あり ※ワリモ岳周辺に鎖場 ※黒部源流(渡渉あり)、鷲羽~ワリモ岳区間等のガレ・ザレ場の下降中落石に注意 ※弓折乗越~林道まで浮石多く下山時転倒注意 ※『本日の山旅(行程)』『ご参考』は今回最下部に配置 【序】 雲ノ平。 それは、日本最後の秘境と言われる場所。 北アルプスの最深部。黒部源流の近く、標高2600メートル付近に忽然と広がる平原だ。 『最後の秘境』と聞いた時から、いつか、いつかと夢見た最果て…。 登山計画、山荘情報、天気、事前の宿・装備の相談、そして直前に発生した槍穂高での地震調査結果。 ガイドの「ミチさん」こと野中径隆さんとやり取りしたメールの履歴をスマホで確認しながら、 私は夢を見ているのではないか…と前泊の宿でひとり、ぼんやりしていた。 経験のない日数。総距離。累積標高差。 とても手の届かない、はるかな、だからこそ焦がれる、憧憬の地。 この夢が叶うのは、ずっとずっと先のことだと思っていた。 開催直前、衝動的に『ツアー申込み』をタップした指だけは、いつも通りに天気と登山計画の画面を表示する。 1日目、雨。2日目以降は晴れ。 ミチさんが事前に知らせてくださった予報と大きく変化はないようだ。 ザック、朝の着替え、朝食、アラームをセットして、秋口のひんやりした布団に滑り込む。 温泉で温まった身体の火照りが柔らかな布団に移るころ、意識は夢へと、 静かに落ちていった。 【壱】 臆病、慎重、心配性。加えて実は人見知り。人から見れば『ウソだぁ~?』。 でも、だからこそこんな衝動的な計画は初めてだったし、こんなに遠くにたった1人で来るのも、知らない人ばかりのツアーも勿論、初めてだった。 幸運だったのは、最初にお会いしたKNさんが明るくて満面の笑顔で、親しみやすい方だったこと。 大分緊張がほぐれたところに、女性3人が楽しげに、最後に唯一の男性が1人、走ってきた。 ミチさん含め、合計7人。少人数で、お互いの顔と名前を覚えられる距離感だ。 最初こそ若干ぎこちなさのあった空気は、互いの装備チェックやミチさんによるザックの重さ測定によって一気に温まる。 「どうしよう、私NG出る気が…」 『あ~…ちょっと、重いですね~(ニコ)』 「ンアアアァ」 今回の行程は長いため、昼食など現地調達出来るものは持たず、可能な限り荷物を軽くすることを推奨されていた。 3泊4日で10Kgを切ったのは初めてだったが、2番か3番目に重い。 あとでウルトラライトな方のギアを見せていただかねば! 「では、ぼちぼち行きましょうか」 ミチさんの号令で、まずはワサビ平小屋に向けて林道を歩き始めた。 空は曇り顔。雨予報だが、幸い行動中はパラつく程度。 各地で小休止、昼食などを挟むごとに隊列を入れ替えながら、ゆっくりと下界を離れゆく。 「夕食時に名前覚えられてなかった人は罰ゲームにしましょう」 「じゃあ、好きなオカズ没収ですね!」 「えーっ!?ちょっとまってください、えっと、UDさん、SKさん、MTさん…(ブツブツ)」 「皆必死笑」 本格的な岩の登山道に入って鏡平小屋を過ぎ、結構な登りを歩くパーティーは、冗談を交えてワイワイムード。 景色は見えなくても次第に空気がひんやりしてきて、標高が上がっていることを肌で感じる。 ミチさんのペースは、最初から自分で歩くよりもゆっくりで、一定。 息切れしないから着実に進むし、危険個所は伝言ゲームで伝え合っていくのも元気が出る。 弓折乗越まで出れば、今日の宿、双六小屋まであと少し。既に景色はハイマツ帯へと変化した、その時。 「えっ…ハァッ!!」 ガスガスの稜線でひょっこり現れ、暫く先導してくれたのは人生二度目の邂逅、雷鳥様。 冬毛になってきている足元が白く、夏毛の茶とのコントラストが綺麗だ。 初邂逅のメンバーの盛り上がりは一際大きく、『雷鳥グッズ買わなきゃ!』と目を輝かせ満面の笑みである。 雷鳥。それは、存在だけで人を幸せにする愛らしい鳥。 小屋グッズ売上の陰の立役者でもあるようだ。 【弐】 暗闇を照らすヘッドライトの明かりを空へ向けると、頭上でけぶった月が輝いていた。 「この様子だと、双六岳山頂は曇っていますね」 月光に縁どられたまあるい山容を見上げるミチさんが暫く考えるように口をつぐみ、『今日は巻道を通りましょう。戻ってくるときにも、チャンスはありますから』と告げる。 双六岳山頂までで下山することになっていたSKさんは、どうされますかと問われて頷き、今回はここでお別れ。 互いに無事の下山を願って、それぞれの目的地に向かって足を踏み出した。 1人減って6人となったパーティが、三俣山荘へ向けて順調に山の斜面を横切っていた時だ。 「明けてきましたね」 立ち止まって右手に振り向いた隊長の視線を追えば、先ほどから微かに気配がしていた夜明けの息吹。 橙に染まる稜線の際を食い入るように見つめていると、まもなく恒星の瞬きが地平を撫でて、夜の濃藍を瑠璃、群青、橙、曙、み空色へと鮮やかな手際で塗り替えてゆく。 ふいに吐き出した息の白さが景色を揺らし、知らず息を止めていたことに気がついた。 「きれい」 夜露に濡れた草紅葉が燃えるように輝き、全員の足をその場に縫い留める。 当たり前の顔をした朝が、決してそうではないと静かに告げる、そんな朝だった。 これ以上は中々ないだろう、そんな鮮烈な記憶はこの日、鷲羽岳の山頂であっけなく更新された。 強風が髪をかき乱し、奥のその奥へと続く稜線へ、青空を駆けて渡ってゆく。 裏銀座の気高い稜線が、薬師岳の白と東雲に染まった山肌が、あっという間に吐息を奪い去る。 歩いてみたい。絶対にこの稜線を歩きたい。 表銀座に感じたのは、華やかさ。 裏銀座に感じるのは、重厚さ。 なんと奥深く、静かな気配を纏う山域だろう。 圧倒的な自然を前に、胸が詰まるほどの感情を適切に表す言葉を持ち合わせていないことが歯がゆく、同時に、 幸福でもあった。 「ミチさん、薬師岳!次は薬師に登りたいです!」 WTさんが満面の笑みで発した願望はまた、私の朧な現から発した夢。 「私も行きたいです!」 ――夢と知りせば覚めざらましを。 小野小町は夢だったと気づいた切なさをそう詠んだけど、私はこの時間が夢だと知っている。 あと2日も覚めないでいられることも、あと2日で必ず、覚めてしまうことも。 夢だと知りながら見る夢もまた、 ひどく切ない。 『日本一遠い温泉』と称される高天原温泉でぽかぽかに温まった夜。 生まれて初めて、降るような星空を見た。 夜空に引かれた星の道、軌道を変えて横切ってゆく人工衛星の点滅。 小屋前のベンチとテーブルに身を預けてじっとしていると、瞬く光に手が届きそうな気がして、目が離せない。 ふいに、涙が零れ落ちるように。 線香花火の終わる瞬間のように。 綺麗に尾をひいた流れ星が最期に一際眩い煌めきを放って、地平に消えていった。 「いッ、いまの見ました!?」 「見た!?凄い大きかったよね!?」 「すっごい大きさでしたァ!!」 隣で寝転んでいたWTさんと同時に飛び上がって、歓喜のハグ。 見てくれも人の目も忘れて感情の揺れるまま動いたのは、果たしていつぶりだっただろうか。 丸裸の自分の感覚も、悪くない。 【参】 高天原の木道を抜け、岩交じりの登りの先、夜が明けきらぬ高天原峠で朝食をとる。 夜間登山は富士山で懲り懲りだと思っていたけれど、なるほど歩く場所と仲間によって印象が全然違った。 雲ノ平に向けて木や鉄の階段をいくつも越え、徐々に明け行く空に歓声をあげながら歩くのは、楽しいと表現するのがぴったりだ。 あっという間に温まった身体は、朝霜でツルツルとなった木道で適度に冷やされ、更に歩いて灰の火山岩の登りへ。ここまで来れば雲ノ平の『奥スイス庭園』である。 何度見てもたまらない景色を振り返りふりかえり、落ちたら水にドボンな登山道を慎重に辿っていく。 一息つける広場に出て、ふと顔をあげたハイマツの海原の先。忽然と姿を現したのが、雲ノ平山荘である。 「雲ノ平だーーー!!」 象徴ともいえる印象的な屋根、 伊藤二朗さんが『山の中の船』と称する小屋。 点在する池塘に映るは青空と真白の雲。計算されつくしたかのように美しくそこにある岩々と植物。 緩やかな弧を描きながら山荘へ続く木道をゆっくりと歩いて辿り着くのは、穏やかな時間が流れる至福の地。 背に太陽のぬくもりを受けながらベンチに座って食べるおにぎりは、やはり至上の食べ物だった。 雲ノ平から黒部源流に降り、また三俣山荘へ登り返す道はハード。 しかしその疲れをふっとばすのが次々と現れる、まさに『巨匠の絵のような』水晶の荒々しい黒、槍穂高の高嶺の稜線、源流の刹那に変化するしぶきに、仰ぐ天の青さ。そして、 「ンン~~!オイシ~~~!さいこ~~!」 三俣山荘でのランチ&珈琲タイムである。 晴れた空を展望食堂から眺め、小屋に満ちる淹れたての珈琲の香りを胸いっぱいに吸い込むときの幸福感といったら。 気づけば時間は飛ぶように過ぎ、雲に覆われた三俣蓮華岳に到着した時には既に14時半。 『双六岳、どうしましょうか。既に結構な行動時間ですので、厳しそうなら巻道を下って小屋に向かうこともできます』 流石に初日に比べて動きの鈍い我々。 しかし分岐で様子をうかがわれると、闘志を燃やさずにはいられないに決まっている。 「行きます!!」 あーあ、今時計の時間確認したばかりよね、己は?一番に座り込んだのはどこの誰だ?ンン? 頭上で冷静な声が聞こえる気もするが、身体は元気に立ち上がって手を挙げた。 疲れてはいるはずだが、ここは山の中。その懐の中では、不思議とまだまだ歩けるような気がしてくるのだ。 結果、あのまあるい不思議な山容に足を触れ、奥まで続くなだらかな道を拝めたのだから、御の字である。 「ついたァ~~~っ」 へとへとで山荘前に辿り着いて脱力したら、 「今日はどちらから?」 と問うてニコニコねぎらいの言葉をかけてくれたお兄さん、救われました。有難うございました。 【終】 最後の朝が来た。 この旅初めて食べる小屋での朝食。 頭のなかは、やっぱりまだふわふわしている。 (今日で、終わるのか…) 昨夜、部屋でミチさんを中心にみんなで覗き込んだのは、二枚に渡る地図。 この山行で歩いた距離に目を見張り、次は薬師だ、どのルートで歩こうか、テントを使うならその前に白馬だ、じゃあそれまでにテン泊練習だと、これまた初めて少しの夜更かしをして、夢の続きに想いを馳せた。 だからか、不思議と切なさよりも楽しみな気持ちで満たされている。 「今日も最高の天気ですね~!」 「ほんと、いい天気ですねえ」 小屋前に出ると、快晴。 双六岳方面に月がぽっかり浮かんでいて、きれいだ。 支度をして、初日と同じルートを辿って。 長いながい夢から覚めるように、日常にむけてゆっくり降りてゆく。 双六小屋の背後で羽を伸ばす鷲羽岳、ハイマツのトンネルを抜けた先の槍穂高、錦の彩りを添えた稜線。 迫る時間をおして、慌てて頬張ったコーヒーフロートのアイスの甘さ。キリリと冷えた珈琲の苦み。 少しだけ、と言いながら目いっぱい撮影会をした鏡池。 駆け下りるように下った白の岩場。雲ノ平山荘で購入したちーかまの旨味。 物凄い速さでこなした林道歩きの先の、至福の温泉タイム。 平湯温泉バスターミナルのテラス席でおしゃべりしながら食べた飛騨牛コロッケと、宿儺かぼちゃジェラート。 今日の終わりを告げる空の色をバスの窓から眺めながら、 夢を旅した4日間に想いを馳せた。 KNさんとWTさんにいただいた林檎とどら焼きを最後の余韻に、 そしてこの旅で生まれた次の夢を決して離さぬよう、 大事にだいじに、胸に抱えて。 ▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△ 【本日の山旅!】小屋泊 まほろば前泊 1日目:新穂高温泉~わさび平小屋~鏡平山荘~双六小屋(泊) 2日目:双六小屋~(双六岳巻道)三俣山荘~鷲羽岳・ワリモ岳~高天原山荘(泊) ※日本一遠い温泉!高天原温泉入浴♪ 3日目:高天原山荘~(高天原峠)雲ノ平山荘~黒部源流~三俣山荘~三俣蓮華岳・双六岳~双六小屋(泊) 4日目:1日目逆順 ※裏銀座の一部=ワリモ岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳 【ご参考】 ■Nature Guide LisのHP(今回参加した少人数制ツアー) https://natureguide-lis.com/kikaku.html ■持って行くとよかったもの: ・ゲイター(岩苔乗越~高天原、高天原~黒部源流~三俣山荘着用) ・一本ストック(大きな岩場以外で重宝・私は軽量化のためなし) ・コロナ対策意識(シュラフカバー、マスク、消毒、黙食等、小屋HP要チェック) ・多めのお金(山小屋軽食やお土産に目が行く…!) ・勇気、気力、子供心。 ■使わなかったもの:ダウン、フリース、羞恥心。 ■同行したリンりんさん目線の日記: (ツアーという選択肢について、利用前の印象、利用後の変化など凄く共感します)https://yamap.com/activities/13308527
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