活動データ
タイム
04:34
距離
9.8km
のぼり
702m
くだり
700m
活動詳細
すべて見るここのところ携帯のGPSが全く作動せず二回分の山行が記録なしに終わっていた。そして今回、GPSが俺の手元に帰って来た。家出していた娘が突然帰って来て挨拶なしに無言で二階の自分の部屋に駆け上がる。その後姿を眺めながら、疲れているだろうから今晩はそっとしておいてあげよう、明日はちゃんと叱らなくてはな、なんてつぶやきながらも内心小躍りするくらいに喜び安心している父親の気分だ。まっ、娘なんて持ったことは一度もないけどね。 設定画面からGPSを一旦無効にして、その状態のまま再起動し、また有効にする。たったこれだけのことで元通りに復帰した。Google MapのGPSは使えていたから、これはハードの問題でもOSの問題でもないはずだ。俺はアプリケーションに原因があるのではないかと疑っている。まっ、もしもまたGPSが使えなくなったらこの操作をすればよい。そして、俺の携帯はAndroidだが、iPhoneの場合も同じような操作で復旧するのではないだろうか。 大分県佐伯市の四国に面した海岸線は複雑に入り組んだリアス式海岸になっている。米水津湾はその南部に位置し、いくつかの港が属している。その一つ色宮漁港を囲むように配置する石鎚山から元越山に連なる尾根、天空ロードはこの尾根を縦走するハイキングコースだ。元越山の眺望が最高のようだったが、計画ミスによりこの元越山を外した行程にしてしまう。“天空ロード”と言いながら、展望が良かったのは最初だけだ。後はジャングルの中を彷徨う“死のロード”となったのだった。山行中に起きた度重なる悪夢のような出来事が俺の神経をズタズタにしてくれた。お陰で俺の脳裏に浮かんだのは、“魔境”の二文字だった。気分はもう水曜スペシャル、川口宏探検隊だ。「魔境!天空ロードに巨大ハエを見た!!」……あれは半分ジョークだったが、こっちは本物だから比較にならんが……(こっちも半分ジョークだろ) 空の公園から入山し暫くするとクロアゲハが現れ天空ロードの奥地へと誘った。クロアゲハはこの日何十回となく俺の前に現れた。何度も写真を撮ろうと構えるが、こいつらは決して俺の見えるところでは止まらない。目の前に現れたかと思うとひらひらと予測できない方向転換と素早い動きで飛び去ってしまう。あまりに頻繁に現れ消えてゆくので、最後の方では悪の使者ではないかと疑うようになっていた。 まず集団で邪悪な咆哮を向けてきたのは蝉だ。何千何万という数の、否、何十万ものヒグラシが悪のラブソングを大合唱する。俺が山道を進むとあいつらはビビる。二、三歩ごとにびっくらこいて十数匹のヒグラシが一斉に飛び立つ。7、8年も土の中にいたやつらは、飛び方が全くなっていない。飛んで逃げようとするのだが、驚きのあまり木から地面に落ちるやつが続出。蜘蛛の巣に引っ掛かってぶら下がっちまうやつがいれば、逃げているはずなのに俺に向かって飛んでくるやつもいる。腕や足にぶつかるのは当たり前、後頭部や首筋、そして顔面にまで体当たりしてくる、最悪だ。まだある。性質が悪いことに飛び立つときに小便を飛ばすやつがいる、悪魔の洗礼だ。これには戦慄した。神経を尖らせ対応したが、何回か実弾を喰らってしまう。本当に忌々しい奴らだ。こうなってくると子供の頃虫取りの対象だった蝉は“巨大ハエ”も同じだった。とどめにあいつらのバカさ加減に辟易させられる。クロアゲハの出現時に立ち止まって見ていたら右腕に違和感を感じた。ちらっと腕を見たら、やつが俺を木と勘違いして止まっていたのだった。俺は「う゛っ!」と叫び、顔を引きつらせながら腕を振る。もうあほかと…… 蝉以上にイライラさせられたのは、蜘蛛の巣だった。どこの山でも早朝に行けば蜘蛛の巣の一つや二つ出会うものだ。しかし、魔境では数が違う。蝉の数も尋常ではなかったが、蜘蛛の巣の数も桁外れだった。きっとこの季節は天空ロードには誰も行かないのだろう。実際誰にも会わないし、駐車場も俺の車だけだった。できるだけ自然の状態を維持することが登山者の務めであると常々思っているこの俺でさえも、2~3m間隔で顔面の高さに蜘蛛の巣があると、イライラを通り越して怒りさえ覚え、強行突破するため巣を破壊するしかない。罠を張るのに手頃な道幅なのだろうか、片道の3~4割の区間で、三歩進んで二歩下がるという状態が続き、時には一歩進んで「うっ」と唸り二歩下がった。慎重を期していたのだが、頭上近くは気がつきにくく何度かは頭からがっつり被った。帽子を忘れていたため非常に鬱陶しく何度目かの頭被りの時、思わず出た言葉は、「あ゛っ、あ゛ーっ、気が狂うぅ~」。蜘蛛にとっては理不尽この上ないことで申し訳なかったのだが、戻りの行程を考慮し、枯れ枝を振り回して徹底的に排除した。枯れ枝の握っている部分が手汗でびっしょり湿ったのは言うまでもない。まあ、捕獲される虫たちにとっては蜘蛛の罠こそが理不尽な存在なのだと理屈をつけて罪悪感を押しとどめた。しかし、あいつらには骨がある。いや、骨はないけど敗北なんて認めやしない。帰りの山行でもう張り直し始めたところがあった。道を遮るように木と木をつなぐ横1本。また切断してやったが、やつらはまたすぐに罠を仕掛けるだろう。生死が懸かっているから当然だが、絶対にあきらめない。根性のあるあいつらは死ぬまで糸を吐き続ける、それがあいつらの愚直なまでの生き方だ、悪くない。俺は燃え上がる生の群れに接して、気が付くとこの場所を気に入っていたのだった。 開始時間も遅かった上に大量の蜘蛛の巣のせいでリミットを大幅に超えてしまった。メインの夜の部があったため中途半端ながら引き返す。往路で入念に蜘蛛の巣を破壊しつくしたため、戻りの速度はかなり早く、あっけなく魔境から離脱した。ここは夏以外の方がいいようだ。機会があれば良い季節に早めの開始でもう一度やり直したいと思う。 星と朝日の部はモーメントにしますので、こちらもよろしく。
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