活動データ
タイム
04:54
距離
9.2km
のぼり
653m
くだり
649m
活動詳細
すべて見るテン泊デビューを当て込んで金曜日午後半休にし、天気にフレキシブルに対応するため一週間前にレンタカーも予約した。そして、念じつつ、飽きもせず、GPV天気予報の雨雲シミュレーションを動かす日々。人生はそううまい具合にいかないものだ。 テントを購入した旨を公表し初回の不安を吐露すると、すぐさまテン泊の先人Y氏から、”初めてでも安心”な生理用品のような素敵なキャンプ場をいくつかご紹介いただいた。今週はその中の一つに行きたかったのだが、木曜夜のシミュレーションでは夜半に雨が通過する結果。雨上がり若しくは雨中でテントを片付けるのは面倒に思い、計画を変更することにした。 シミュレーションによると、東京近隣では南側の方が雨が降りにくいようだった。そこで少し遠いが南アルプスを近くで観たいと考えた。前衛の山で車中泊できるところにしてみよう、帰りも考えて時間的にハードでない山がいい。検討した結果、櫛形山登山口の駐車場が良さそうだった。何しろ午後から動けるのだからいきなり登山口の駐車場ではもったいないと思い、寄り道する場所も考えた。日の入りと富士山と湖を一枚に収めたいと考えて場所を探した結果、芦ノ湖がこれに該当した。 金曜日の夕刻、芦ノ湖湖畔の無料駐車場はスッカスカ、お天気雨が降っていた。二隻の海賊船は桟橋に停泊し、その上をツバメがひっきりなしに飛び交っている。貸しボート小屋もカーテンが閉じていた。ただ、一人の男が胴まであるゴムズボンを履いて湖中に立ち、何かを釣っていた。 芦ノ湖に近付く道中で小雨がぱらついたりしたのであまり期待していなかったが、やはり雲は厚く、私の獲物は釣れそうにない。仕方ないのであてもなくあたりをぶらつく。恩賜箱根公園からの戻り道、再現された箱根の関所に入った。薄暮の中、無人の関所はそのまま時代劇の中に入った気分だ。私は誰に咎められることもなく関所破りしたのだった。 櫛形山の登山口駐車場は1800m以上の標高にあって、うねった細い山道をひたすら登る。かなり高い標高地に人家があったが、何故あんな辺鄙な土地に住むのだろうかと訝しむ。その人家あたりから道を逸れて細い林道に入った。夜中だったし一部区間に濃霧がでていて視界が悪い。道は舗装されているが1台分の幅しかなく、もしも上から車が来たら困るな、路側帯のある場所までバックしたくないな、と不安がよぎった。また、道路脇にところどころ大きな岩が転がっていて、落ちてきたやつを片付けたんだな、こいつがきたら一巻の終わりだなと思った。 駐車場に着いた時は午前0時を過ぎていたが、雲が厚く星は見えない。白線で囲まれた枠がすべて空いていた。それはそうだろう、今夜は俺だけさ、しかし車中泊なんて何年ぶりだろう、と思う。若いころ車で飲みに行って、朝までの時間車で寝たことは何度もあったけど。 スマホのアラームをセットした後、エンジンを切ってシートを倒した。その時変なことを思い出した。バブル時代のホンダ・プレリュードだったと思うが、あの車は運転席側から助手席を倒せる通称「スケベノブ」が付いていた、らしい。”らしい”というのは、私と私の周辺はバブルの恩恵には全く縁遠かったので、実物にお目にかかったことがないからだ。(これを読んでいる人で実際にあの目的でスケベノブを使ったことがある人、あるいは使われた経験がある人は正直に申告しなさい) やはり車のシートでは寝付けない。目をつむり眠りにつこうとあがいていると、冷気がドアからにじり寄ってきた。登山用の半袖の上に薄手のウインドウシェルを羽織っただけだったので、かなり寒い。面倒くさいのでしばらく我慢したが、我慢しきれなくなって持参したソフトシェルを布団代わりに掛けた。初めからそうすればよかったのだ。それでもぼんやりと意識があるような状態が続く。しかし、私は頑なに目を閉じ続けた。 なんとなく腕時計を見た時、蛍光塗料が塗られた針は3時半を回っていた。寝ころんだ姿勢のまま窓の外を見やると、小さいがしっかりとした光源が針葉樹の先端のすこし上で揺れている。U.F.O.の三文字が頭に浮かび、あるいは人魂という超自然現象的実在を考える。私は薄目でにらみつけるように老眼の目をこらした。よく見れば木の方が揺れている。火星かな金星かな、ああ、そういうことかとガッカリというか残念というか、そんな気持ちでむっくり起き上がった。外は雨が降っていない。車外の空気を吸いたくなって外に出た。一睡もできなかったと思っていたが、見覚えのない二台の車があるのを見て、少しは眠れたんだなと思った。寝ぼけまなこで空を見上げると、月が煌々と輝いていた。急いで支度したほうがいいと直感した。
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