やっぱりここは天国だ　立山

雄山を貸切る贅沢について。 室堂山荘にて。朝起きて、一足先に出発したヒロさんを見送り、調子を取り戻したトコトコちゃんと二人で朝食前の散歩に出かけ、帰ってきて美味しい朝食とコーヒーをいただいた後、満を持して出発。 酸欠、高山病に気を付けながらゆっくりゆっくり登る。残雪をサクサク踏みながら一の越山荘まで、そこから先は丁度良い具合の岩登りで高度を稼ぐ。標高二千五百メートルを超え、二千八百メートルを超え、少しずつ息切れが整うのが遅くなるのがわかる。息を切らしながら登ると高度障害が出やすくなるので、できるだけゆっくり登る。あたり一面、人影は無し。こんな誰もいないところで調子を崩すわけにはいかない。 それにしても、何という贅沢。夏の立山は、どこへ行っても人、人、人、だった。石畳の道には行列ができ、一の越山荘のベンチは満員で、雄山までの登攀は前の人の主に下半身を見ながら登った。 それがどうだろう。立ち止まって振返っても、人影ひとつない。眼下に広がる無人の室堂。動いているのは、時折飛び立つ岩ひばりと、少し先を行く元気なトコトコちゃんだけ。人生において、こんな贅沢許されるのでしょうか。ここが極楽浄土だと言われたら、納得せざるを得ない楽園感である。昔の人もそう思ったからこそ、この山は霊峰と呼ばれ敬われ尊ばれてきたのであるなぁ。そして私にもそのジャポニズムとも呼べるスピリットがきちんと残っていることが嬉しい。この土地に特別を思える私、悪くない。自己肯定の感慨に浸っていると、ホラホラ、雄山到着である。いや、実際は息も絶え絶えの具合であっただろうが、もう忘れてしまいました。辛い苦しいをすぐに忘れて、楽しい嬉しいを記憶に留め置くことに長けたポジティブ遺伝子を受け継がせてくれた両親に感謝である。あと、どこででもグーグー眠れる遺伝子にも心から感謝しています。 静謐な雄山の頂上で、貸し切りの絶景を堪能する。午後から崩れる天気なれど、朝のうちはすっきりと晴れ渡り、白馬岳の不帰キレット、穏やかな唐松岳、迫力の五竜岳、鹿島槍ヶ岳の双二峰、残雪のこる爺ヶ岳をしっかり目に焼き付けること叶いました。 神の居わす土地にゆっくりと腰を下ろし、ただ息を飲むほどの絶景に浸れる幸福をありがとうございました。もはや何に感謝を捧げるべきかわからない、それほどに大きな幸福でした。