活動データ
タイム
14:10
距離
18.9km
のぼり
1907m
くだり
1907m
活動詳細
すべて見る「つえーよ、やっぱりつえーや、錫ヶ岳は。完璧だよ、すげー山だ、すげーや。」 と、矢吹ジョーがホセ・メンドーサとの戦いの最中に言い放ったセリフとシンクロする。 錫ヶ岳は、皇海山に並ぶ栃木のラスボス級の山。 むしろ、皇海山より強敵ではなかろうか。 錫ヶ岳に登頂した帰り道、白檜岳を登り返しながらそう思った。 先週は皇海山に登り、今日は錫ヶ岳。 最近、精神的に負けていることが多い自分が、この難関の山に二週続けて登ることが出来るのか、どうしても試してみたかった。 実は、この錫ヶ岳には一緒に登ってほしい人がいる。 でも、無理言って、今日は下見という名目で単独登山をさせてもらった。 無論、私が錫ヶ岳に登るのは初めてのことである。 どうせ登るなら、最もきつそうな湯元起点で自分を鍛え直してみようと思った。 藪道で徐々に蝕まれていく体力と精神力。 踏み出す一歩がとてつもなく重い。 ガスも出始め、時間的にも不安になる。 白檜岳の登り返しは笹原の斜面で、ルートもロストしやすい。 笹原の斜面から見上げる山頂は、近くて遠い。 …思えば、先週の皇海山登山の後も多忙の日々。 油断していると、あっという間に仕事が山積みとなる。 早く帰って休みたいのに帰れない。 昨晩もほぼ眠らずにここ湯元へ来たが、疲れは正直残っている。 湯元スキー場のゲレンデを登り始めてみても、案の定いつもより足が重い。 でも、いいのです。 今日は精神力を試す旅。 重い足取りで、湯元から前白根山へ急斜面のガレ場を上がってくると、先週登った皇海山が見えてくる。 そして、その後ろに見えるのは、な・なんと富士山! 思ってもみなかった景色に、ここへ来て良かったとつくづく思う。 前白根山からは白根隠山を経由して、白錫尾根を白檜岳に向かう。←早口言葉ではありません 白檜岳までは道も比較的明瞭で、ここまでは順調。 しかし、白檜岳から先が噂に聞く藪道。 笹原に隠れた道は、膝下の感覚で何となく分かる。 しかし、笹藪を抜けると、低木の藪、踏み跡不明瞭の樹林帯、多数の倒木、時折り変わる進路、何度も続くアップダウン、そして笹原の急登。 知らず知らずのうちに体力は奪われていたようです。 でも、この手つかずの山の雰囲気がとても好き。 振り返ると、見たことのない角度で中禅寺湖や日光連山が見渡せる。 力は失せても景色や自然に元気をもらい、気力で錫ヶ岳へ登頂を果たす。 自分がここに立つことの不思議さ。 錫ヶ岳は遠い世界のことだと思っていた。 実感の沸かぬまま下山する。 そして、冒頭の場面へと続く… 喉がカラカラになるほど強かった日差しも、白檜岳へ登り返す頃にはガスで遮られてしまった。 この体調なら、もう少し荷物を軽くしておくべきだったと後悔しても、もう遅い。 このまま諦めて、休んでしまいたい衝動に駆られる。 ここからは体力ではなく、まさに精神力の勝負。 足元の斜面を一歩ずつ登って行く。 苦しくても一歩ずつ進んで行けば、必ず目標にはたどり着けるもの。 白檜岳、白根隠山、前白根山の順に登り返し、ようやく湯元への道が見えてくる。 しかし、辺り一面はガスで真っ白になる。 でも、ここで自分が燃え尽きて、一緒に真っ白になるわけにはいかぬのです。 残った力で急斜面を下りて行く。 そして、湯元スキー場にたどり着く。 ゲレンデを歩いていると、鹿の群れが草を食みながら、こちらを見ている。 まるで私を迎え入れてくれるかのよう。 持っていた笛で呼応し、鹿たちと暫し戯れる。 自分たちの住む世界は、こんなにも穏やかで心安らぐところだったのですね。 この地上に下りてきて、安堵感が自分を包み込む。 戻って来れて本当に良かった。 精神的な強さは、登山の尺度で測ることは決してできない。 自分はその対価を登山に求めているだけで、つまり自己満足だとは思っている。 それでも登って、何かを証明したい。 精神的な弱さは自分の中にあり、つまり敵はホセ・メンドーサでも錫ヶ岳でもなく、自分である。 武道の世界でも、強くなればなるほど弱い自分に気付く。 今回の登山でも、自分はまだまだ肉体的にも精神的にも弱いことを知った。 でも、完成された者より、日々を試行錯誤してもがいている者の方がずっと人間らしいし、そうありたいと思う。 男なら、ジョーのように真っ白な灰になるまで戦って完全燃焼してみたい。 先ずは、明日のためにその1!
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