氷の女王

その姿を見たものはいない けれど 彼女の存在は古から語り継がれている 時代や国によって 呼び名は様々かも知れないけど 僕は そんな伝説の存在に 一番近づけたのかも知れない・・ 吐息も凍るほどの世界 僕の存在なんて 草木よりもちっぽけだった 凍てつく大地にはいつくばって 彼女の吐息を浴び続けていると 生まれ始めて 今まで感じた事の無いような 死への恐怖心と 生への執着を覚えた・・ 耳をつんざく彼女の歌声は 時に 身体を吹き飛ばすほどの威力を持っていた けれど 彼女に背を向けた瞬間 優しく背中を押す 母の手の温もりの様なものを 感じたんだ・・ 「気を付けておかえり」 まるで 彼女がそう言っているかのようだった 開けていく視界 上がり始める体温 生命の徴候が僕を包むころ 僕の身体が宙に浮かんだ 足元を見ると 小さな枝が千切れていた 「ゴメンね・・」 下界に住んでいたら 決して感じ得ない様な心境だった この世界に生きとし生けるもの同士 人であっても 植物であっても 平等の様な気がしたんだ・・ 麓に近づいても 時折聞こえる 彼女の歌声を背中に感じながら 僕はゆっくりと 足元をたしかめながら 歩を進め続けた・・