大岳山〜もしも漱石が山活を書いたら〜

2021.03.07(日) 日帰り

活動データ

タイム

04:57

距離

8.5km

のぼり

1194m

くだり

672m

チェックポイント

DAY 1
合計時間
4 時間 57
休憩時間
56
距離
8.5 km
のぼり / くだり
1194 / 672 m
7
1 51
3
5
54

活動詳細

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山道を登りながら考えた。 山泊ばかりだと家人に角が立つ。 日帰りだとマンネリだ。 意地を通せば窮屈だ。 とかくに人の世は生きにくい。 生きにくさが高じると安きに流れる。 そうして人は、日帰りで登れる山に登りながら、 アルプスに想いを馳せるのかしらんと。 今朝は予報に反して曇天である。これでは倫敦と変わりないぢゃないか、と思いつつそれでも山に向かうのだから、用はない。 私の住む町は田舎者が集まる野蛮な所で、 どうせ碌な物はない。 大人しく蟄居(ちっきよ)しているくらいなら、 と女中の止めるのも聞かず、 無鉄砲に目的の山を決めず、 とりあえず奥多摩方面に向かったのだ。 武蔵五日市で汽車を降り、乗り合いバスにて白倉にて下車し、大岳山を経由して奥多摩方面あたりに抜けることとした。 正直、単調な登りである。 行き交う人もおらぬ上に、 さして苦痛の伴う登攀でもない。 ぢゃあ登らなきゃ良いようなものだが、 それもかなわない。 汗ばんできたため、重ね着の外套を脱ぎ、 春の兆しを探しながら登ったものの、 なに風流な景色など望むべくもないではないか。 大岳山頂に着いた。 さしたる達成感も無い。 おまけに霞がすっかり景色を覆っておる。 そうは言ってもやはり、山の上は気分がすこぶる良い。 ひばりの鳴き声にシスレーの詩を思い浮かべながら、カップ蕎麦が出来るのを待つ。 3分で蕎麦が出来るなんて馬鹿にしていらあ、 西洋ではこのやうなケチな食い物など見たことが無い。 と思ったが、出来るのだから仕方ない。 ちなみに私はカレー味派だ。 御岳方面に向かうことにする。 登りとは打って変わり、ゴツゴツとした岩道に変わる。こいつは行きの単調さから解放され、山を登る楽しみを感じられ実に愉快だ。 やはり山はこうぢゃなければいけない。 ハイカラな外套を着たおぜうさん方ともすれ違う。 霞がかった杉の木は、長谷川等伯にでも描かせれば、 さぞかし玄幽な姿になるだろう、 などと考えながら歩くとロォプウェイ乗り場に近づく。 山に登りに来てロォプウェイに乗る奴があるもんか。 俺は断固歩く、と心に決めていた。 茶店でビイルを飲んでいるうちに、 だんだん単調な里山を歩くのが億劫になり、 仕方無しにロォプウェイに乗ってやった。 ざまをみろ。 2本のビイルのせいか、私はまどろみながら家路に着いた。

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